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1. Hi, hi, hi, there.

――では、ここから全曲解説です。まず1曲目は作品のイントロになるような1分29秒のショート・トラック。

サイトウ「作品全体の導入になるような曲。最初はここまで短い曲ではなくて、3分くらいあったんです。さらにニュー・オーダーの“Blue Monday”(83年)みたいな展開をつけたらおもしろいんじゃないかって、話していたんですけど……」

元良「そこに手を付けたら、ダンス・ミュージックの喚起する没入感にまんまとハマって戻れなくなっちゃったんだよね」

サイトウ「だから、いろんなパーツをさらに細かく切って貼った短い曲にしようとなった」

――“Blue Monday”のオマージュは、後半のベースラインなどですか?

サイトウ「はい。でも、わかりにくいですよね。ほかには、歌詞をローマ字変換して縦読みすると〈Monday Blue〉と読めるようにもしています(笑)」

Ken「え? 知らなかった(笑)」

――〈f**k〉という歌詞に被さっているピー音がクールでした。それによって、むしろ言葉の強さが強調されている。

サイトウ「プロデューサーがヒップホップ畑の人なので〈ピー〉を入れ慣れているのか、めちゃくちゃうまいんですよ。みんなで爆笑していました」

――そのあとには、ニルヴァーナばりにスネアを連打する大味でワイルドなフィルが入ってくる。ベタベタなんですけどかっこいい。すごくロックだなって。

サイトウ「(ニルヴァーナのドラマーだった)デイヴ・グロールって、テクニカルなこともガンガンできるのに、超シンプルなフィルをめっちゃ使うじゃないですか。遊び散らかし感やぶっ飛ばし感が出るから、俺らもああいうドラムが好きなんです」

 

2. モーニング・グローリー

――これは、w.o.d.史上もっともサイケデリックな楽曲なんじゃないですか。

サイトウ「まさに“楽園”以降の曲ですね。これまでのやり方で最高峰だと思える曲が出来たことで、〈もっと遊べるやん〉となれたから作れた。ビートルズの“Tomorrow Never Knows”(66年)から、ケミカル・ブラザーズの“Setting Sun”(96年)~“Let Forever Be”(99年)を経由して、この曲に繋がっていくようなイメージです」

元良「ドラムを叩いているときには〈マンチェスター〉がイメージの真ん中にありました」

サイトウ「ビートルズからマッドチェスター、そして打ち込みのケミカル・ブラザーズへと受け継がれてきたサイケデリック・ロックの流れをふまえて、それぞれの時代のカッコいいところだけをミックスしたかったんです。そこでセッションを繰り返した結果、最終的にいろんな要素をうまくまとめ上げようとせず、直感的にぶつけ合ってみたらいい感じになりました。で、〈こうなったらもう混ぜたいものはぜんぶ混ぜてやれ〉って、亡くなったエディ・ヴァン・ヘイレンへの敬意を込めたタッピングのギター・ソロをぶち込んだら、これまたうまくいった」

――ベースの音もいいですよね。シンセ・ベースっぽいサウンドがもっとも活きている楽曲だと思いました。

Ken「このアルバムから新しいエフェクターを入れたりして、音の響きとも今まで以上に向き合いました。シンセ・ベースっぽい音はけっこう使っていますけど、この曲は自分でもびっくりするくらいよくなった。リフも気に入ってます」

――サイトウさんの歌詞も印象的です。鬱を消し去ろうとするのではなく、鬱自体が踊っているというか。

サイトウ「そこはニルヴァーナが大きいですね。鬱々とした感情……それって言ってしまえばただの文句だからこそ、カート・コバーンはあんなにデカい声で歌えたんだと思うんです。ローリング・ストーンズの“(I Can’t Get No) Satisfaction”(65年)とかもそうじゃないですか。俺は〈みんな元気にやろうぜ〉とか言う性格でもないし、とにかくそのままの自分でいたいと思ってます。でないとデカい声で歌えないですから」

 

3. 楽園

――冒頭で話されていた、今作のターニング・ポイントになった曲。

サイトウ「間違いなくアルバムの主軸になっている曲です」

元良「作ったタイミングが、ちょうど新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化してきた時期で。いろんな予定が白紙になって時間はあったから、思いつくことはぜんぶ試したよね」

サイトウ「どのパートが抜けても足りないし、何かを足せば邪魔になる。最高のバランスですよ。これまでに培ってきたやり方に対して、〈やりきった〉と思えて、次のフェーズに進めたんだと思います。でっかい釘を打ったような感覚」

Ken「試行錯誤を繰り返して、最終的にはエディット一切なしの一発録り。極まった感があって、めちゃくちゃ気持ちよかったです」

――出だしのドラムはハンマー・ビート。曲全体でのプレイもサウンドもお見事で、時期的には1975の“People”(2019年)が重なりました

サイトウ「“People”も意識していました。(ハンマー・ビートは)古くは70年代のノイ!に代表されるものですけど、そういうビートの曲でプレイリストを作るくらい、好きなんですよね」

――歌詞は“モーニング・グローリー”に近いところもありますよね? ディストピアを謳歌するような。

サイトウ「ですね。諦念が前提にあるというか、諸行無常的な性格なので(笑)。 “楽園”はコロナ禍に入ったばかりの先が見えなかった時期の曲で、“モーニング・グローリー”はそこからある程度時間が経った頃に作った。この2曲の歌詞は地続きですね。今後、一気にひっくり返ってコロナ以前に戻るようなことはないとわかりつつ、そのなかで見た夜明けみたいな」