(左から)Ken Mackay、サイトウタクヤ、中島元良
 

ポップ・シーンのなかでギター・バンドの存在感が薄くなって久しいが、近年その様相が変わりつつある。例えばUKのチャートに目を向けると、ブリストルのアイドルズや、サウス・ロンドンのシェイム、アイルランドはダブリンからのフォンテインズD.C.といったパンク~ポスト・パンクを基調としたインディー・バンドが躍進している。ラウド・ロックのシーンには、持ち前のエネルギーをモダンなプロダクションと融合し、さらなる人気を獲得したブリング・ミー・ザ・ホライズンユー・ミー・アット・シックスらがいる。また、アメリカではフー・ファイターズのようなヴェテランが進化を示した新作を出していることも見逃せない。

神戸発の3人組、w.o.d.のサード・アルバム『LIFE IS TOO LONG』は、そんな海の向こうを見渡したうえでの〈今ロックがおもしろい〉流れと共鳴する作品と言っていいだろう。60年代のガレージ・ロックや創世期のハード・ロック、90年代のオルタナティヴ・ロック/グランジなどが持つラウドネスと、エレクトロやヒップホップも吸収したダンサブルなグルーヴが一体となって迫りくる、彼ら特有のロック・サウンドはさらにパワーアップ。ギター、ベース、ドラムス―― 3つの楽器とマイクにすべてを懸けてきた3人組が見事、限界突破を果たした。本作には、彼らが時代の前線に躍り出る可能性が満ち溢れている。

今回はメンバー3人に『LIFE IS TOO LONG』に収録された10曲を解説してもらった。

w.o.d. 『LIFE IS TOO LONG』 SPACE SHOWER(2021)

 

ロック・バンドが作ったロック・アルバム

――全曲解説に入る前に、ファースト・アルバム『webbing off duckling』(2018年)とセカンド・アルバム『1994』(2019年)から、今作『LIFE IS TOO LONG』に至るまでの流れを振り返っていただけますか?

サイトウタクヤ(ヴォーカル/ギター)「よくある話ですが、ファースト・アルバムは結成してからそこまでのベスト。セカンド・アルバムも、曲は新しく作ったものでしたけど感覚的にはファーストに近いですね。どちらも初期衝動が詰まった作品です」

――具体的な制作面やサウンド面において、両作に共通点はありますか?

サイトウ「紐解けばいろいろあると思いますけど、わかりやすいのは2作品とも〈一発録り〉にこだわったってことですかね。〈ロック・バンドたるもの〉みたいな、えてして固執になってしまうような意味合いではなく、いちばんかっこいいものを作るためにそうした。それが今作の先行シングル“楽園”で、行きつくところまで行ったような感触があったんです」

Ken Mackay(ベース)「そうだね。最高のものが出来た。あれでやりきった」

サイトウ「“楽園”で満足できたことで、そこからは余裕を持てたというか、〈遊び心〉みたいなものが生まれて、いろんなことに挑戦できるようになりました。とは言っても、今回も変わらず一発録りが中心なんですけど、音楽的な幅は広がったと思います。それらを取捨選択するうえで、散漫になったりダサくなったりしないように、しっかりと練り上げることができた」

――w.o.d.の音楽は、ガレージやハード・ロック、パンクやグランジの文脈にあるとの同時に、ダンス・ミュージックやヒップホップも肝になっていると思うんです。ただ、ソウルやファンク、サイケデリック・ロックのビートをそのまま踏襲するというより、それらがテクノやヒップホップに繋がっていったという流れもふまえたうえで、生音にこだわっている。今作はより音楽的な幅が出ていて、サウンド・デザインも洗練されているぶん、その魅力がより鮮明になっているのではないかと。

サイトウ「そこはレイヴやクラブ・カルチャーとロック・バンドが結びついた、80年代後半~90年代前半に起こったマンチェスター・ムーヴメントからの影響が大きいですね」

Ken「ダンス・ミュージックとかヒップホップということで言えば、今作は特に、ループの気持ちよさを意識したよね」

サイトウ「今作のプロデューサーは、ストロークスの『Room On Fire』(2003年)のエンジニアを務めた方(ヨシオカトシカズ)なんですけど、彼の出自はヒップホップ畑。ロック的な考え方ではないんですよね」

――確かに、このアルバムでは、ループの持つ中毒性やノリやすさと、ロックの持つダイナミズムとのバランス感覚が絶妙だと思いました。

サイトウ「今作は、プライマル・スクリームが鍵になっているような気がします。彼らのカタログには、ロック、ストレートなパンク、テクノやハウスにブレイクビーツ、ダブなど、ほんとうにいろんなスタイルのアルバムや曲がある。なのに、それぞれがバラバラな印象はなくて、一本の線で繋がっているように思うんです。簡単に言えば、プライマルは何をやってもめちゃくちゃロック。今作は特に、プライマルのことが頭のどこかにあったよね?」

中島元良(ドラムス)「実際に名前もよく出ていたしね」

サイトウ「何がロックでロックじゃないとか、今のロックはどうだとか、そういう話とは距離を置こうとしていたり、自分たちの音楽ジャンルを自分たちから言及したくなかったりした時期もあったんですけど、今作は〈ロック・バンドが作ったロック・アルバム〉だと、断言できますね」