1+1=2、そんな数式に意味はあるか? ふたつの才能が共鳴し爆発する瞬間の記録――無限大の可能性に満ちた音楽を掴むため、彼らの航海は続いていく!!

ゼロから無限大を生む音楽

 BOOM BOOM SATELLITESの中野雅之とTHE NOVEMBERSの小林祐介がスタートさせたロック・バンド、THE SPELLBOUND。2019年にSNSでヴォーカリストを募集した中野、そのポストにいち早く呼応した小林の双方が、新たな音楽活動に期する切なる思いを胸の奥底に抱えていた。

 「自分の音楽を作るということは仕事以前にライフワークなんです。BOOM BOOM SATELLITESの活動停止以降、プロデュースや楽曲提供でそれなりに忙しく過ごしていたんですけど、そのライフワークからは数年間遠ざかってしまい、自分が生きてない感じがしていた。だから、ある日、全くの無計画かつ突発的にSNSでヴォーカリスト募集のポストをしたんです」(中野雅之、ベース/プログラミング)

 「BOOM BOOM SATELLITESの大ファンであることは言うまでもないんですけど、自分が一人のミュージシャンとして、これからどう進化して、どんなことができるのかを考えたとき、行き詰まりを感じて悩んでいた時期でもあって。そんななか偶然、中野さんのポストが目に入って、衝動的に立候補させていただきました」(小林祐介、ヴォーカル/ギター)。

 しかし、ふたつの才能が瞬く間に共鳴することはなかった。

 「その後、会って話すようになった小林くんはあまりに掴みどころがなくて、自分も曲のアイデアが湧いてこなかった。ただ、そこで諦めず、週1回会って話すだけの時間をずっと続けて。それから半年経った頃、ようやく曲作りが始まったんですけど、これも最初は全然良くなかった。それでも続けていくなかで、何か意義があるんじゃないかと初めて思えたのが(2022年のファースト・アルバム『THE SPELLBOUND』収録の)“はじまり”と“なにもかも”。その2曲に辿り着くまでに、ものすごい時間がかかりましたね」(中野)。

 「振り返ると、僕は憧れの音楽家である中野さんに何か教えてもらおう、リードしてもらおうと受け身の状態だったんです」(小林)。

 「小林くんは、1+1が2になって、そこにちょっとした化学反応が加わる程度に考えていたんだと思います。でも、僕がやろうとしているのは足し算ではなく、ゼロから生み出す音楽。だから、足しても何も生まないかもしれないけど、自分は無限大に広がる、そんな音楽を生み出したいと彼には伝えました」(中野)。

 最初の呼びかけから3年もの間、試行錯誤を延々と繰り返しながら制作が行われた『THE SPELLBOUND』は、ダンス・ミュージックとオルタナティヴ・ロックの多彩にして鋭利なアプローチを組み合わせながら、コロナ禍の停滞感と創造性のブレイクスルーのきっかけを自身の内面に求めた作品となった。

 「あのファースト・アルバムは外に広げていくというよりは自己探求が凝縮された作品でした。コロナ禍の真っ最中だった2021年の空気感が色濃く反映されているし、そんななかで僕と小林くんが長い時間を過ごしながら、宝探しのように掘り当てたもの。密室性やパーソナルなムードが固有の魅力だと思います」(中野)。