インタビュー

Noriko Suzuki with Be-Spell『存在の耐えられない軽さ』鈴木典子が語る、クンデラの金字塔小説に音で真っ向から挑んだ20年ぶりの新作

Photo : Munemasa Takahashi

音で味わいつくす『存在の耐えられない軽さ』

 不道徳極まりない色恋沙汰に60年代チェコの暗い政治/社会問題が絡んだミラン・クンデラの哲学的小説「存在の耐えられない軽さ」は、大戦後の文学作品としては最高傑作の一つに数えられ、映画にもなった。そんな巨峰に真正面から挑んだのが、ジャズ・シンガー鈴木典子だ。アルバム・タイトルもそのまま『存在の耐えられない軽さ』。2001年に出したソロ・アルバム『Be-Spell』が高く評価されたものの、子育てなどもあって活動を控えめにしていた彼女の、20年ぶりとなる新作である。

Noriko Suzuki with Be-Spell 『存在の耐えられない軽さ』 ソングエクス・ジャズ(2021)

 経緯はこうだ。2015年に亡くなった夫&ジャズ・ギタリストの津村和彦の遺骨でダイヤモンドの指輪を作るため、17年夏、鈴木は渡米した。そこで再会した旧友の在米美術家、服部太郎の「『存在の耐えられない軽さ』をモティーフに詩を書きたい」という言葉をきっかけに、アルバム制作を決意。「あの小説は私も昔から大好きで、映画も大学の仲間だった服部くんと一緒に観たんです。あの時、夫の死とクンデラの小説と私の音楽がつながった」。

 作曲とピアノを担当したのは、ジャズ・ピアニストの高田ひろ子。「彼女は津村と『Blue In Green』というデュオ・アルバムも出しているし、何よりもクンデラの熱心な読者だった」から。その他、パーカッションの岡部洋一、トランペットの類家心平、ギターの前原孝紀が参加。唯一の心残りは「クンデラの故郷チェコで録音するための手配もすべて整えていたのに、コロナ禍のため直前で断念せざるをえなかった」ことか。

 全7章から成る小説の各章を素材に書かれ、小説内の言葉も随所に散りばめられた服部の歌詞を読み、鈴木は「私が死に向き合っている現実と、小説の中で描かれている死の問題がクロスしている」とも感じたという。

 「アレンジは、随時ライヴで磨きながら全員で仕上げていった感じだけど〈ヴォーカルのラインとは違う別のメロディー、別の人生がある作品〉というのが本作の重要なコンセプトだったので、その部分を担うサブ・トーンのトランペット・パートだけは譜面に書いた」という言葉どおり、鈴木のスモーキーなヴォイスに随所で併走するトランペットがとりわけ印象的であり、小説/人生の重層性に光を当てている。ノーマ・ウィンストンの初期作品あたりが好きなリスナーにはたまらないだろう。

 「ジャズ以前にカッワーリやロマ系など民族音楽が大好きでした。最近のライヴではバッハ“マタイ受難曲”のアリアとか、ミルトン・ナシメントなどブラジル音楽を好んで歌っている」という鈴木典子。次作でも驚かせてもらいたい。

 


LIVE INFORMATION

日本・チェコ交流100年記念コンサート
『存在の耐えられない軽さ』~The Unbearable Lightness of Being Concert ACT

2021年6月4日(金)東京・赤坂 サントリーホール ブルーローズ
開場/開演:18:00/19:00
出演:
Noriko Suzuki with Be-Spell
Noriko Suzuki(ヴォーカル)/類家心平(トランペット)/高田ひろ子(ピアノ)/岡部洋一(パーカッション)/前原孝紀(ギター)
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