Photo by Mark James

スーパー・ファーリー・アニマルズのフロントマン、グリフ・リースが、7作目のソロ・アルバム『Seeking New Gods』を発表した。USツアーを経たバンドと共に録音、ビースティ・ボーイズやジャック・ジョンソンのプロデュースで知られるマリオ・Cがミックスした本作は、リースらしいサイケデリック・ポップをさらに推し進めた新境地だ。

『Seeking New Gods』のコンセプトの中心は、中国と北朝鮮の国境地帯にある神秘的な白頭山。リースは本作で、ユーモアと知性に裏打ちされた歌詞を通して人間と文明、記憶と時間について思索し、地層や地形学に思いを馳せ、人類史を超えた壮大なスケールの世界をひょうひょうと旅する。

今回Mikikiは、スーパー・ファーリー・アニマルズの時代からグリフ・リースが音楽でどんなことを表現し何を歌ってきたのかを振り返り、『Seeking New Gods』へと至る道のりについて考える。ライターの木津毅が、彼の30年近いキャリアに迫った。 *Mikiki編集部

GRUFF RHYS 『Seeking New Gods』 Rough Trade/BEAT(2021)

 

社会や政治を歌ってきたスーパー・ファーリー・アニマルズとグリフ・リース

〈新たな神々を求めて〉。何やら黙示録のような壮大なタイトルに身構えるひともいるかもしれないが、これはグリフ・リースの新作である。ソロとしては7作目となる『Seeking New Gods』には、いつものように甘く切なく、ユーモラスで、そしてとびっきりポップなサイケデリック・ロックが詰まっている。

ウェールズが誇るサイケ・ポップの至宝、スーパー・ファーリー・アニマルズ(以下SFA)が現れてもう四半世紀が経つ。90年代中頃、ブリットポップに沸いたイングランドとも、それに対抗したスコットランドのギター・ロック勢ともまた異なる、さらにオルタナティヴな場所から現れたのが彼らだった。グリフ・リースはそのフロントパーソンであり、つねにバンドの思想を体現してきた人物である。

人懐っこいポップなサウンドやユーモラスなモチーフからはすぐに気づきにくいかもしれないが、リーフはSFAの初期から楽曲に社会問題や政治的なメッセージを織りこんできた。たとえばテクノ~エレクトロニカ、カントリー、カリプソまでを取りこんで賑やかなポップ作となったサード・アルバム『Guerrilla』(99年)はバンドの初期の代表作だが、そのファースト・シングル“Northern Lites”はエルニーニョ現象についての報道に触発されたもの。森林破壊について言及しており、現在世界中で取り沙汰されている気候変動にも繋がる環境破壊の問題を訴えている。あるいは、“The Door To This House Remains Open”は移民を受け入れることについてであり、人間が他者にオープンであることの重要性を歌ったものだとリーフは説明している。

スーパー・ファーリー・アニマルズの99年作『Guerrilla』収録曲“Northern Lites”

 

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グローバル社会の問題を想像力とユーモアで変える歌

折衷的なサウンドを拡大させつつもビタースウィートなフィーリングでまとめた5作目『Rings Around The World』(2001年)はSFAのキャリア最高傑作と名高い作品で、タイトルの〈世界中に繋がる電話〉が象徴するのはグローバリズムだ。

弾けるように明るいアルバム・タイトル・トラックには世界が繋がっていることの興奮が描かれているけれども、アルバムを通して見つめられるのは、グローバル社会がもたらした搾取構造、環境汚染、不平等、人権侵害などシリアスなものだ。この時期、テーマ的にもっともSFAとシンクロしたのは、『OK Computer』(97年)~『Kid A』(2000年)/『Amnesiac』(2001年)期のレディオヘッドだと言えるだろう。

そしてまた、リースは収録曲の“Presidential Suite”でビル・クリントンとボリス・エリツィン両元大統領をモチーフに政治家の退廃を描いているように、権力への怒りも隠さなかった。フォーキーな“No Sympathy”では富を搾取する権力者たちに向けて、あくまで穏やかに〈きみは死ぬべきだよ〉と歌うのである。

スーパー・ファーリー・アニマルズの2001年作『Rings Around The World』収録曲“Presidential Suite”

けれどもSFA(グリフ・リース)には、レディオヘッド(トム・ヨーク)にはないチャーミングで温かいユーモアがある。“Receptacle For The Respectable”にポール・マッカートニーがニンジンとセロリを齧る音で参加しているというのも最高だけど(ビーチ・ボーイズの“Vegetables”にポールが野菜を齧る音が入っているという逸話からの引用)、何よりもスウィートなメロディーと優しい言葉で思いやりを表すのが彼らである。

先述した“No Sympathy”の次に収録された“Juxtapozed With U”はソウルを思わせる煌びやかなアレンジとメロディーが美しいバンドきっての名曲で、そこでリースは少しおどけるように、〈堪えなくてはいけないね、嫌いな奴らのことも〉と歌っている。それは超富裕層への憎しみにも耐えねばならない人びとの気持ちに寄り添うものだそうだが、同時に自分には、立場や考えの異なる他者とそれでも共存していくことを模索する歌のようにも聞こえる。

スーパー・ファーリー・アニマルズの2001年作『Rings Around The World』収録曲“Juxtapozed With U”

簡単に世界が終わるわけではないと諦観混じりに告げる“It’s Not The End Of The World?”ではまた、こんなにも優しいメッセージが届けられる――〈この世の憎しみをすべて/物真似鳥に変えてしまって/遠くの空に放してしまおう〉。この世界に横たわる不平等や搾取を正面から見つめた上で、それをどうにか想像力とユーモアとともに変えていくことを歌にこめてきたのがSFAであり、グリフ・リースだった。

 

コンセプチュアルなグリフ・リースのソロ活動

バンドと並行しながらリースはソロとしての活動を『Yr Atal Genhedlaeth』(2005年)以降始めるが、ここでとりわけ注目したいのは、LAのビート・メイカーのブーム・ビップと結成したキッチュなエレクトロ・ポップ・ユニット、ネオン・ネオンの存在である。

ファースト・アルバム『Stainless Style』(2008年)では映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」に登場するタイムマシンのモデルとなった〈デロリアン〉を開発したジョン・デロリアンの人生を、セカンド・アルバム『Praxis Makes Perfect』(2013年)では大戦後のイタリアでソビエトの社会主義古典を蒐集し出版した共産党員ジャンジャコモ・フェルトネッリの人生をアルバムごとにテーマにしている。前者はアメリカにおける過剰な商業主義を、後者は大戦後の冷戦構造の緊張を、それぞれ数奇な人生を送った人間の視点から浮かび上がらせる。アイデアとしては突飛だが非常に知的な風刺ポップで、いま聴いてもリースのユーモアの冴え渡りぶりに驚かされる。

ネオン・ネオンの2013年作『Praxis Makes Perfect』収録曲“Hammer & Sickle”

SFAのバンドとしての活動は2010年代以降落ち着いてしまうが、リースは代わりにソロ・アルバムをコンスタントにリリースしていく。ソロではよりコンセプチュアルなテーマを押し出しており、たとえば4作目『American Interior』(2013年)では18世紀のウェールズ出身の冒険家であるジョン・エヴァンスがモチーフとなっている。エヴァンスはアメリカ中西部にウェールズ語を話す部族が存在するという伝説を確かめるためにアメリカに渡った人物で、彼の足跡を通してリースもまたアメリカを探究する。アメリカン・フォークロアをリース流のサイケ・ポップとして調理した本作で、そして、リースは結果的にアメリカが侵略によってできた国だという事実に向き合うこととなる。リースの遠い祖先に当たるエヴァンスもまた、侵略に加担した人物であったことにも。それは、植民地主義が行った搾取によってわたしたちの現在の豊かな生活があるという事実を思い知ることであり、その負の遺産を見つめることでもある。そうしたダークな部分も隠さずに、しかしファンタジックな冒険譚として現代に向けて語り直したアルバムなのだ。

2013年作『American Interior』収録曲“American Interior”

一方、キャリアでもっともエレガントなオーケストラル・ポップ・アルバムとなった『Babelsberg』(2018年)は、サウンドの穏やかなフィーリングとは裏腹にブレグジットやトランプ現象以降に漂う現代の社会不安をモチーフにした作品だ。とりわけ印象的なのはソーシャル・メディア上での孤独の描写で、とろけるようにドリーミーな“Selfies In The Sunset”には〈夕焼けのなかの自撮り/バックには燃えるような赤/死の谷では誰もが平等〉という世界の終末を連想させる言葉がある。リースはいまの世界を、ディストピアとしてここで描いている。アルバム中もっともキャッチーな“Negative Vibes”で〈きみと僕はネガティヴな空気をすべて克服しないといけないね〉と繰り返しているのも、ポジティヴであることを押しつけてくる社会のムードを皮肉っているように見える。ただそれでも、リースが歌うと本当に前向きな気持ちになってくるから不思議だ。そこにはごまかしの優しさではなく、すべての聴き手に対する慈愛のフィーリングがあるから。

2018年作『Babelsberg』収録曲“Selfies In The Sunset”

 

優しい世界を想像しようと誘う『Seeking New Gods』

全編ウェールズ語でエクスペリメンタルなフォークとエレクトロニカ・ポップを収録したアルバム『Pang!』(2019年)を経て発表された『Seeking New Gods』もユニークなコンセプト・アルバムで、モチーフとなっているのは朝鮮半島と中国の間に位置する白頭山である。といっても『American Interior』ほど具体的なエピソードを引用しているわけではなく、白頭山にまつわる伝説にインスパイアされてリースの心に浮かんだことが描かれるイマジネイティヴな内容だ。

サウンド的にも、ウェストコースト・ロック、70年代のソフト・ロック、ジャズ、ソウルを取りこんだ相変わらず広範に及ぶサイケデリック・ポップを聴かせてくれる。ムードはどこまでも穏やかで、少しメロウで、だけどとても楽しくて優しいアルバムだ。シングルの“Loan Your Loneliness”のキュートに跳ねるリズムから、SFAの名曲たちを思い出すファンも多いだろう。

『Seeking New Gods』収録曲“Loan Your Loneliness”

アルバム・タイトルの〈新たな神々を求めて〉について、リースは〈僕たちが生きているこの悲惨な時代についての、猛烈にダークなジョークだよ〉と説明している。曲が作られたのはパンデミック以前のことだそうだが、ある意味で、何を信じていいのかわからず途方に暮れる現代の人びとの心情と重なるものとなっているのではないだろうか。アルバム・タイトル・トラックである“Seeking New Gods”はメランコリックなバラッドで、リースはこんな風に歌う。

愚か者たちは歓迎するだろう
疫病を恩恵として
新たな神々を求めて
溶岩が流れている時も

もともとは信仰の対象だった白頭山が、いつしか領土問題のような政治的対立の現場にすり替わっていったように、あらゆるものが争いや搾取の種として利用されてしまう。〈疫病を恩恵として〉――その言葉は、パンデミックのさなかを生きるいまのわたしたちの胸にもずっしりと刺さるものだ。

それでもなお、リースのユーモラスなサイケデリック・ポップはより良き何かを信じて生き続けようとする人びとに寄り添うように鳴っている。静謐なピアノが幽玄な風景を喚起するクロージング・ナンバー“Distant Snowy Peaks”で、リースはゆっくりと〈僕たちは野原をともに駆け抜け/雪を頂く遠い山頂を目指し/雪の中で真実と叡智を探し求めた〉と歌ってアルバムを終える。険しい雪山の中で、それでもわたしたちは美しい何かを探し続けるだろう。グリフ・リースはいまも、ユーモアの力でもっと楽しくて優しい世界を想像しようと誘っている。

『Seeking New Gods』収録曲“Mausoleum Of My Former Self”

 


RELEASE INFORMATION

GRUFF RHYS 『Seeking New Gods』 Rough Trade/BEAT(2021)

■国内盤CD 
品番:RT0127CDJP
価格:2,420円(税込)
ボーナス・トラック追加収録/解説書・歌詞対訳封入

■輸入盤CD 
品番:RT0127CD
価格:2,519円(税込)

■限定盤LP(ダーク・グリーン・ヴァイナル)
品番:RT0127LP2
価格:3,179円(税込)

TRACKLIST
1. Mausoleum Of My Former Self
2. Can’t Carry On
3. Loan Your Loneliness
4. Seeking New Gods
5. Hiking In Lightning
6. Holiest Of The Holy Men
7. The Keep
8. Everlasting Joy
9. Distant Snowy Peaks
10. Tropical Messiah *Bonus Track for Japan