名手シゲティによる最円熟期モノラル時代の名盤が素晴らしい音質で初集成!
聴き手を心の底から揺さぶらずにはおかない熱い魂が内面から迸る音楽……それがシゲティ(1892-1973)のヴァイオリンである。演奏家の主観を排し、ヴァイオリン特有の甘美さをかなぐり捨て、楽曲そのものを端的に表現する〈新即物主義〉の旗手として20世紀のヴァイオリン演奏の美意識を先導したシゲティ。楽譜を深く研究することで楽曲の本質に肉薄しようとした〈新即物主義〉の高い理想は、いつしか模倣者、追随者たちにより〈楽譜に忠実〉の美名のもと魂の抜けた〈機能主義〉に置き換えられ、20世紀後半のクラシック界は堕落の一途を辿った。シゲティの録音も顧みられることが少なくなり、とくに彼の最円熟期というべき1940~50年代の米コロンビア録音はCD化が遅れに遅れていたが、2021年、遂にその全録音が初めて集大成されたのである!
収録曲を作曲年代順に追うと、まずバッハの無伴奏ソナタ第3番が貴重。彼のヴァンガード録音より7年前の録音で、より技巧が良く、激しいアタック、迸る旋律、フーガでの立体的構築が圧倒的だ。ヘンデルのソナタでの澄み切った精神、高い理想への飛翔、タルティーニの協奏曲での悲愴美を突き抜ける力強さ、魂の深淵を覗き見るような深い音! ベートーヴェンのソナタ第1番では若き作曲家の決意表明とシゲティのそれが二重写しになり、同第6番では成熟した作曲家のたゆたう情趣が味わい深く描き出される。ブラームスのソナタ第3番は、初演者フーバイ直伝の解釈とシゲティ渾身の演奏が熱い感動を呼び覚ます。ブラームスのピアノ三重奏曲第2番はカザルス、ヘスの一期一会の大家の出会いが生んだ凄まじい高揚感、創造の瞬間が記録されている! 同郷ハンガリーのバルトークとコダーイの作品では、民族の血が熱い共感で湧き上がるかのごとく。プロコフィエフのソナタ第1番ではラディカルな前衛性が際立ち、作曲家自身のピアノ伴奏を得たストラヴィンスキー作品での緊迫感も尋常ではない。