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制作延期があったから全部詰め込めたと思ってる

――『DOOR』は、本当だったら去年(2020年)の5月にリリースする予定だったのが、コロナの影響もあって1年以上リリースが延びて。当時は〈全6曲収録です〉と言っていたけど、全8曲になりました。

「結局、これを入れるならこれも入れよう、これは省こうっていうのがあって、ガラリと変わった。変わってないのはタイトルぐらい」

――タイトルはなぜ『DOOR』っていうの?

「パッと浮かんだんだよね。いろんな曲があるからいろんなドアを開けてほしいなって思ったし、文字にした時に〈Dior〉みたいでオシャレだなと思って」

――そんな理由(笑)? ドアは開けるの? 閉めるの?

「開ける! 私が開けるイメージ。もちろん聴く人にも新たなドアを開けて欲しいという思いもあるけどね」

――コロナの影響はどれくらいあった?

「去年は今よりもコロナの実態が分からなくて怖すぎたし、みんなで集まって制作したとして、何かあった時に私だけではメンバーを守れないし、だからいったん制作を白紙にさせてもらって。でもそうして良かったと思うよ、自分の方向性が前より定まったし、胸を張って出せるものに仕上がったので」

――アルバムの中身は当初の想定からどう変わった?

「なんて言えばいいかな~。〈音楽してる!〉って感じに変わった。それまでは作ることに必死すぎて……もちろん今回も必死なんだけど、自分にもまだまだ表現したいことがこんなにあったんだって楽しめるようになった。それは歌だけじゃなく、音に関しても興味の幅が広がって、勉強もしたし、トラック作りもしたし」

 

今、未来に希望が持てない人に向けて歌いたかった

――それぞれの曲についても聞かせてください。1曲目は、MVも出した“Oops!”。これは、さっき話もあった凹川さんの作詞作曲で、チアキ流ポップスの新境地を切り開いた曲だなと思って。

「今一番やりたい音楽に近いのが“Oops!”かな。さっき言ってくれたような感情爆発系の曲ではないから、もちろん今後もそういうのも織り交ぜてはいこうとは思ってるんだけど、今一番やりたいスタイルはこういう感じ。実は、最後の“生活”という曲の〈私が守ってあげる〉という部分のメロディーが、この曲の〈眠れない夜にひとり〉という部分にリンクしていて、“生活”は最後の曲って決めてたから、リピートして聴いた時にそれに繋がるような曲を1曲目として拓真さんにお願いした。アルバムだから意味のあるものにしたくて」

――本当だ! 気付かなかった!

「“生活”は2人の曲なんだけど、“Oops!”は独りぼっちの女の子の曲で、眠れないんだろうね」

――ちーちゃんも眠れない系女子だよね。

「眠れない系女子だね、小学校の頃から」

――ちーちゃんはこれまで歌う時、作者に歌詞の意味を聞かない人だったけど、今回はどうでした?

「拓真さんの中にストーリーがあって、そういうの自分から説明をしてくれる人だから聞くんだけど、やっぱり100%は理解しないようにしているし、拓真さんも理解されすぎないように言ってくるね」

――次の“曇天”はモヤモヤした感情を突破できるような、チアキの本領が発揮できるバンド・ソングだと思います。でも、さっきの話を聞くと、もしかしたら今やりたい音楽の方向性とはちょっと違うのかもしれないけど。

「もちろんやりたくないことはやってないんだけど、もともと今回バンドの曲を入れる予定はなかったのね。で、これはさっきも言ったように歌詞から出来た曲で、拓真さんに歌詞を送ったら、アルバムに入れても入れなくてもいいからとりあえず曲を付けようということになり、そしたら〈ごめん、この曲は(自分の頭の中で)バンドでしか鳴ってないからバンドにしちゃった〉って言われたんだよね。でもそれが良かったし、2曲目にはめてみたら『DOOR』自体がすごく華やかになった。だから〈入れるか!〉って言って入れた」

――ちーちゃんの詞っていいよね。モヤモヤしたものを吹き飛ばそうとする歌詞が声にも合ってるし。だって本当は誰よりもモヤモヤしてる人だろうに、人前ではそういうの見せないでしょ。

「“曇天”の歌詞を書いたのは、寂しくて落ちてて布団から出られないような時で、ワンコーラスだけ書いてみようと思って、出てきたものをそのまま拓真さんに送って」

――〈暗転のステージ目を凝らした〉って歌詞があるでしょ。やっぱりステージ上から見える景色にいつまでも憧れがあるんだなと思って、〈超チアキっぽい歌詞だ〉って思ったんだけど。

「嬉しい(笑)。ありがとうございます」

――で、〈あのアイドルは歌をやめて 初恋の人は永遠の星になった〉という歌詞も出てくるけど……。

「そう、そのアイドルっていうのは嵐のことで、初恋の人は志村けんさん。志村けんさんが亡くなった時に、〈絶対なんてないんだ〉って思って。東村山の星だしね。最後の〈いつか出会いを果たすために〉っていうところも、別に人じゃなくても目標や夢でもいいし、今、未来に希望が持てない人に向けて歌いたかった」

――あ、今の自分です。

「(笑)。もちろん私自身のことも励ましてるんだけどね。やっぱり去年、ライブできなかったのが大きかったかな。ライブでいろんなことを発散してるんだって思った」

――この曲のバンド・メンバーは、ギターがひぐちけいさん。ベースがプリメケロンの古谷隆祐さん。キーボードは凹川さんで、ドラムスはbeneの岡田夏樹さん。この人選は?

「ひぐちけいさんは〈べこの笹舟〉のライブでサポートで弾いてらして、カッコよすぎて〈この人なんだ!?〉ってなって、“曇天”のギターをどなたに弾いていただきたいか考えた時にひぐちさんしか思い浮かばなかった。

岡田さんはさっちゃん(蒼山幸子)の楽曲で叩いていらっしゃるのを聴いてお誘いさせていただいて、古谷さんは拓真さんのご紹介で、プリメケロンというバンドを聴いてすごく良くてお声がけさせていただきました。

ドラムス以外はみんな宅録で、みなさん大変だったと思うけど、本当に誠実に丁寧に楽曲と向き合っていただいて、みなさんのおかげでこの楽曲の制作は私が一番楽しめました」

――さっき“曇天”はチアキの本領発揮って言ったけど、次の“traffic jam”のダークなところからサビでパッと抜ける感じもチアキの本領発揮だと思っていて。凹川さんの作詞作曲だけど、凹川さんはよくチアキを理解してると思いました。まず暗かったり寂しかったりする情景にチアキの声が合うから。

「えー! うれピップル!」

――……(笑)。ライブでも何度かやってるから聴いたことはあったんだけど、アレンジはガラッと変わって。

「そうだね。実はこの曲は、恋人を殺してしまって、クルマの助手席に死体を載せて、埋める場所を探しにドライブしてる曲だって説明されて……っていうのはレコーディングした後に知ったんだけど。今そういうモードみたい」

――うわ、みどりかわさんみたいなダークな世界観出た。MVだとそんな感じじゃないのに。

「MVは私が作ったし、そんなシーンに合うフリー素材もないしさ(笑)。ただ映像を作る際も拓真さんから〈人がいるイメージではない〉って言われたから、MVにも人は出てこないんだよね。さっき拓真さんは私を理解してるって言ったけど、それってどういう理解なんだろう?」

――チアキの声はダークなシーンに合うと思うんだけど、それ以上に、そこから解放されて抜け出る時にバッチリはまると思っていて。凹川さんはそういうところを理解してるんじゃないかな。

「へ~。この曲はもともと拓真さんのストック曲だと思ってたんだけど、実は私のために書き下ろしてくれてたらしい。だからそのパーって開ける感じとかを理解してくれて、私に宛てて書いてくれたのかもしれないな」

――ちーちゃんは自分をそんなに分析してないんだね。

「私は自分を知らないって思った。それは不利なことだよね」

――うーん。知らないが故の良さもあるから何とも言えないけど。ライブ映像を観返したりはしないの?

「自分の映像は恥ずかしくて観られない(笑)。音源はめっちゃ聴くけどね」