インプットをこまめに注ぎ足しながら

 アルバムの1曲目を飾るのは、彼らとしてはやや意外なシューゲイズ・ナンバー“Walls and a Ceiling”。『Loveless』30周年に伴うマイ・ブラッディ・ヴァレンタインのリイシューが盛り上がるなかに、独自の角度で切り込んでいる。

 「この曲はまさにモチーフがマイブラだったんですけど(笑)、いわゆるシューゲイザー的なやつを〈ギターを弾かずにどこまでできるか?〉という、自分のなかの不毛なチャレンジから始まっていて。最終的には土江君にギターを足してもらったんですけど、ほとんどはシンセで作ってます」(大島)。

 “Click”と“Depicting”はそれぞれミニマルなダンス・チューンで、ベースラインに特徴があり、キエラン・ヘブデンのフリッジやフォー・テットあたりを連想させる。

 「“Depicting”は仮タイトルが〈Four tet〉だったんですよ。〈いつもいい感じのアルペジエイターが走ってる〉っていう浅い知識やイメージ以上の意味はないんですけど(笑)。この曲は大半のパート演奏をシンセのランダム・シーケンスに任せていて、イケてない音を出すときもあるけど、演奏に関してはメンバーの2人より信頼してます(笑)。“Click”はまずベースラインとブレイクビーツを作って、タイトルにもなっているクリック的な、ポリリズムなシンセを加えることで印象が変わりました」(大島)。

 オーガニックなエレクトロニカ寄りの“No Guitar”と、ドープなヒップホップ風の“New Era”は土江の素材を大島が再構築したもの。土江のソロ・プロジェクト、SKREW KIDに通じる色合いがありつつ、あくまでALLsの音楽に仕上がっている。

 「僕が2018年に出したソロは大島くんにも手伝ってもらっていて、曲が自分の手から離れたときにすごくおもしろかったんですよね。“New Era”は次のSKREW KIDのアルバムに別ヴァージョンが入る予定だったりするんですけど、僕のなかではもともとディアンジェロの『Voodoo』のイメージで、でも大島君に渡すと全然違うものになる。なので、〈この曲をリリースしたかった〉というよりも、〈どうなるか聴いてみたかった〉っていうほうが強いです」(土江)。

 トラップ・ビートを用いた“Potara”、ミニマルな“In the Cut”を経て、ラストを飾るのはダビーなサイケ・ナンバー“Tryal”。ポールと共にエフェクティヴな空間を作り上げ、アルバムを締め括っている。

 「“In the Cut”は一番自分の肌に合いますね。僕はやっぱりダンス・ミュージックが好きで、音楽を理屈では聴かないので、直感的にいいなって」(鬼頭)。

 「“Potara”は少し前にトラップばっかり聴いてたので、自然とやってみようと思ったんです。音数の少ないクールな音像をめざしてたんですけど、フィルター・シンセの開いていく感じの古典的な気持ち良さに結局負けちゃって、でも上手くハマったからまあいいかって(笑)。“Tryal”は最初に手を付けていた曲なんですけど、完成にいちばん時間がかかったかな。自分のなかの肝は小節頭の半拍前に入るディレイの効いたリムショット。あれが入った瞬間にパシッと魂がこもったように感じました。さっきの話に戻っちゃうけど、制作当初は曲やアルバムといった形にするっていう覚悟みたいなのが皆無だったんで、ぼやっとしたスケッチを描いては捨てるみたいな作業を人知れず続けていくなかで、地元も近いしRamzaやfree Babyroniaといったアーティストのパフォーマンスを観る機会がそこそこあって、毎回とんでもない音を出してるし、かなり刺激されました。そういったインプットをこまめに注ぎ足しながら、ゆっくりと完成に至るといった感じでしたね」(大島)。

 〈凪〉を意味するアルバム・タイトル通り、今の彼らは決して肩肘張ることなく、既存の〈バンド〉という形態に捉われることもなく、自然に生まれてくる音楽に身を委ねている。さて、次に彼らから音が届くのはいつになるだろうか?

 「アルバムというほど構えずに、ミックステープっぽいのをコンスタントに出せたらいいんじゃないかとは思います。大島君はお題があると速いから、やり方次第で次もできるんじゃないかなって」(土江)。

 「僕はまたフィルターの開け閉めに戻りたいですけどね(笑)」(大島)。

左から、ALL OF THE WORLDの2008年作『Finesse』、レミ街の2015年作『フ ェ ネ ス テ ィ カ』(共にTHANKS GIVING)、ポールの2020年作『Fading』(Mute)