自身も世の中も変化していくなかでの奔放なトライアル。溢れる音楽愛をもとにアーティスト活動を続けてきた彼女があなたに贈る〈幸せ歌〉とは?

〈幸せ歌〉を集めたい

 できるかどうかわからない。先が見えないままかもしれない。でも、何があっても私は音楽を続けたい――。約5年ぶりとなるオリジナル・アルバム『caravan!』において、豊崎愛生は溢れんばかりの音楽愛と華やかなポップンセンス、そして、アーティスト活動を継続することへの強い意思を示した。前作『all time Lovin'』(2016年)以降はベスト盤『love your Best』(2017年)、カヴァー集『AT living』(2018年)を発表するなど、コンスタントにリリースを続けてきた彼女。その間のシングル“walk on Believer♪”“ハニーアンドループス”(TVアニメ「プリプリちぃちゃん!!」のエンディング・テーマ)も含む本作は、二つのテーマを掲げて制作された。一つは〈豊崎愛生の音楽活動の第2章のスタートとして、新しいことに挑戦する〉。もう一つは、〈日常生活や人生におけるハッピーを集めた作品にする〉だ。

豊崎愛生 『caravan!』 MusicRay'n(2021)

 「サード・アルバムを出したあと、ベスト・アルバム、カヴァー・アルバムをリリースしましたが、オリジナル・アルバムは久しぶり。新たな第一歩を踏み出せる作品にしたかったので、初めての作家の方の楽曲も含めて、サウンド的に挑戦の多いアルバムになったかなと。自分史上、いちばん振り幅が大きい作品になったと思います。〈幸せ歌〉を集めたアルバムにしたい、という気持ちも強かったですね。制作を始めたのは去年の6月くらいなんですが、(コロナ禍の影響で)生活スタイルが変わって、世の中全体がネガティヴになっていて。だからこそ私は、ハッピーを感じられるアルバムにしたかったんです。性格的に〈ポジティヴなところだけが取り柄〉みたいなところもあるし(笑)、世界中のアーティストが配信ライヴやコラボをやったり、こういう状況だからこそ生まれたこともたくさんあって。変化することをポジティヴに捉えたかったんですよね」。

 アルバム・タイトルになった〈キャラバン〉とは、隊を組んで砂漠を旅する商人の一団のこと。そこには〈音楽を届けることをあきらめたくない〉という彼女自身の意志が反映されている。

 「私自身もそうですが、エンタメ全体で先の見えない状態が続いていて、〈砂漠みたいだな〉と。でも、音楽をやっている人は楽器や歌で旅を彩りながら前に進んでいける。そのイメージが〈キャラバン〉と重なったんですよね」。

 奔放な音楽的トライアルと、〈日々を彩る幸せを表現したい〉という思いがひとつになった本作。オープニング曲“それでも願ってしまうんだ”は、アルバムのテーマがもっとも強く表れたナンバーだ。田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN)が作詞、ミト(クラムボン)が作/編曲を手掛けたこの曲は、マーチング風の穏やかなリズムと、大らかで力強いメロディーが重なるミディアム・チューン。〈柔らかくて優しい そんな日々を続けよう〉という歌詞を含め、豊かな音楽性と前向きなメッセージが自然に融け合う楽曲に仕上がっている。

 「ミトさんは私のいちばんの幸せ曲“music”を作曲してくれた方。田淵さんが作ってくださった曲もファンの方は大好きなので、今回もぜひ、お二人に参加してほしくて。“それでも願ってしまうんだ”は、デモを聴いた瞬間に満場一致で〈これがリード曲じゃない?〉って感じでした。この時期だからこそ出来た曲だけど、5年後、10年後に聴いても〈コロナ禍の頃の歌だよね〉みたいにならない普遍性があって。この曲で旗を立てられた感覚があったし、アルバム全体を通して表現したことが詰まってますね」。

 

すべてを肯定して

 ジャンルにこだわらず、幅広く音楽を聴き続けている豊崎。このアルバムには、そんな彼女のミュージック・ラヴァーぶりが反映された楽曲が多く収められている。まずは“MORNING:GLORY”(作詞 : 古屋真、作曲 : さかいゆう、編曲 : 臼井ミトン)。ソウル・ミュージックに根差したメロディーラインと、AORやネオ・ソウル系の流れを汲むアレンジが印象的な、洗練されたポップソングだ。

 「以前からさかいゆうさんのファンで、普通にライヴにも行ってたんです。さかいさんの洋楽的なセンスが大好きなので、そのことをお伝えして作曲していただきました。アース(・ウィンド・アンド・ファイアー)っぽい感じというか、ファルセット気味で歌ったんですけど、サウンドともマッチしていて、すごくカッコ良く仕上げていただきました。歌詞に関しては、私、早起きしてゆったり過ごすのが好きなんですよ。窓を開けて、天気がいいだけでハッピーだし、コーヒーを淹れて、朝ご飯をゆっくり食べて。完全に〈モーニング・グローリー〉だし(笑)、〈新しい一歩を踏み出す〉〈旅がまた始まる〉というテーマにも合ってますね」。

 心地良いステップを踏むエレピのフレーズに導かれた“Cheers!”は、作詞を土岐麻子、作/編曲をトオミヨウが担当。軽やかさと切なさが共存するヴォーカルが響く珠玉のナンバーだ。煌びやかな東京の風景と共に大人の恋愛シーンを描いた歌詞も、豊崎のリクエストによるものだという。

 「土岐麻子さんの音楽はずっと前から聴かせてもらっていて、トオミさん、土岐さんが一緒に作る音楽が本当に大好きで。〈大人の恋愛〉をテーマにした曲を入れたいと思ったときに、〈絶対、土岐さんがいいです!〉とお願いして。オンラインで打ち合わせさせてもらったんですけど、〈東京タワーが大好きなんです!〉みたいな私の話をニコニコと聞いてくださって、本当に素晴らしい歌詞を書いていただきました。トオミさんのメロディーとサウンドもカッコ良くて、イントロが始まった瞬間、〈はい、優勝!〉という感じでした(笑)」。

 さらには、「ボカロっぽい雰囲気もあるし、ここまでヴォーカルを加工したのも初めて。〈ヴァーチャル・豊崎さん〉がいる、まさに挑戦の曲ですね」という“ライフコレオグラファー”、〈この道の端を 手繰り寄せてみて 繋がってるよ 信じる声は今も〉というリリックが胸を打つ“TONE”、EDMのテイストを採り入れたトラックと「このアルバムで伝えたいことを総括したような」歌詞が合わさるエンディング曲“March for Peace”などを収録。この『caravan!』を作り上げたことで彼女は、アーティストとしてのネクスト・フェイズを歩んでいくことになりそうだ。

 「時代的にも私の人生的にも、このタイミングでCDをリリースできることは奇跡だと思っていて。世の中も私も変わっていくけど、すべてを肯定して進んでいきたいです」。

『caravan!』に参加したアーティストの関連作。
左から、UNISON SQUARE GARDENの2020年作『Patrick Vegee』(トイズファクトリー)、クラムボンの2015年作『triology』(コロムビア)、さかいゆうの2021年作『愛の出番 + thanks to』(newborder recordings)、臼井ミトンの2015年作『Singer Song Traveler』(Tuff Beats)、土岐麻子の2021年のカヴァー集『HOME TOWN ~Cover Songs~』(A.S.A.B)、ハンバート ハンバートの2020年作『愛のひみつ』(ZENRYO/SPACE SHOWER)、たむらぱんのベスト盤『tamuLAPIN』(コロムビア)

 

音楽愛に溢れた豊崎愛生のディスコグラフィー

 声優ユニット、スフィアとしての活動と並行して、ソロ・アーティストとしても多くの作品を残してきた豊崎愛生。ここでは、彼女の音楽好きな面が多岐に渡って投影されているアルバム群を順に紹介していこう。

 まずは、2011年に届けられた初作『love your life, love my life』。Rie fu、谷山浩子、Chara、つじあやの、クラムボンらとコラボしたシングルのほか、初出の曲ではコトリンゴが手掛けた可憐な“march”など、豊崎の愛らしい歌声を活かしたオーガニックで柔和なムードの一枚となっている。続いては、本文にも登場する〈最高の幸せ歌〉=ミト製の“music”を含む2作目『Love letters』。豊崎の嗜好がより広く反映された本作では、言葉のリフレインがクセになるたむらぱんとの“パタパ”、羊毛とおはなとの繊細なバラード、sasakure.UKとのファンタジックなエレポップ、ウォーミーなハナレグミとのアコースティック・ポップ、田淵智也とのカントリー調など、初顔合わせ組との楽曲を挙げただけでもサウンド面のヴァラエティーは大幅に拡大。それらをふんわりと束ねる主役の歌声が、作品全体にフェミニンなトーンを与えている。その後も佐藤タイジとのグラム・ロックや、バック・ビートにダビーな意匠をまぶした蔡忠浩(bonobos)との夏ソングといった挑戦を重ねた彼女は、2016年に3作目『all time lovin’』を発表。ここではさらに、ROLLYによる華やかなロックンロールや、密やかな歌声で夜の叙情を映し出す永野亮(APOGEE)との“タワーライト”など、曲調もヴォーカリゼーションもさらに振り切った表現を開拓。そのうえで、どんな楽曲であっても甘くたおやかな空気で包まれている点が、彼女らしさだと言えるだろう。

 そして、何度もコラボを重ねている安藤裕子との軽快な新曲“猫になる”を含むベスト盤『love your Best』を挿み、2018年にはカヴァー集『AT living』をリリース。はっぴいえんど、荒井由実、大滝詠一……と70年代の日本の名曲からセレクトした全11曲となっており、どれも原曲に沿ったアレンジと歌い口を意識していたことが窺える仕上がり。先人に対する豊崎のリスペクトと音楽愛が伝わる一枚に。 *bounce編集部

左から、豊崎愛生の2011年作『love your life, live my life』、2013年作『Love letters』、2016年作『all time Lovin’』、ベスト盤『love your Best』、2018年のカヴァー集『AT living』(すべてMusicRay'n)