その時々のリアルな思いを歌に託してきた2年半。好きなものなら何でもアリのヴィヴィッドなアイデアと愛に満ちた音楽が並ぶ宝箱を開けてみると……

 

パーソナルな宝箱

 音楽への深い愛情を独創的なポップ・ミュージックに結び付けるセンスと、天性の魅力を湛える歌声を存分に活かしたサウンド・プロダクション。これほどまでに芳醇なポップ・アルバムは本当に稀だと思う。

豊崎愛生 all time Lovin' MusicRay'n(2016)

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 豊崎愛生がサード・アルバム『all time Lovin'』を完成させた。前作『Love Letters』(2013年)以降は、たむらぱんこと田村歩美シアターブルック佐藤タイジ、さらにはつじあやのbonobos蔡忠浩ら幅広いシーンで活動するアーティストとのコラボレーション・シングルを次々と発表してきた豊崎。「私が好きなものだったら、何でもアリ」というスタンスで制作された今回の作品は、『all time Lovin'』というタイトル通り、彼女自身の音楽的な好みが色濃く反映された作品となった。

 「大好きなアーティストさんが作ってくれた楽曲も、ライヴでのお客さんとの思い出もそうですが、いつもプレゼントを受け取っているような気持ちで音楽活動をやらせてもらっていて。〈そういう宝物が集まったものって、何だろう?〉と考えていたら、小さい頃、自分のお気に入りのものをクッキーの缶々の中に入れていたことを思い出したんです。個性の強い楽曲が多いですけど、全部私が好きなものばかり。だからアルバムも、子供の頃の宝箱みたいな感じにできたらいいなって」。

 前作からの2年半の音楽活動において、彼女はその時期のリアルな思い、興味のあるトピックを取り入れるようにしていたという。その結果として本作には、〈豊崎愛生〉というアーティストの人間性がヴィヴィッドに描かれることとなった。彼女自身の素の感情が真っ直ぐに感じられることが、このアルバムの生き生きとしたムードに繋がっていることは間違いないだろう。

 「例えば〈テンションが高いグラム・ロックをやりたい!〉と思って佐藤タイジさんに曲をお願いしたり、〈夏らしい曲を歌いたいな〉という思いが“Uh-LaLa”に繋がったり。あと、“ポートレイト”を作ったときは〈活動のスピードがちょっと速いな〉って感じていて、〈1回立ち止まって、落ち着きたい〉という気持ちがあったんですよね。ディレクターさんやスタッフの皆さんからの〈こんな曲を歌ってみたら?〉という提案から始まる曲もあるんですけど、歌詞に関しては、そのときの私自身の感情から引っ張ってきてるんですよ。そういう意味では、かなりパーソナルなものが詰まっているアルバムだと思います。そういう部分も怖がらずに出せるようになってきたのかもしれないですね」。

 

ナチュラルに立てる人に

 ミトクラムボン)が手掛けたエモーショナルなポップ・チューン“銀河ステーション”や、ROLLYの作詞/作曲によるド派手なロックンロール・ナンバー“恋するラヴレター”など、色彩豊かな新曲も収録。サウンドの方向性と歌詞のテーマを正確に表現するヴォーカルにも惹かれるが、〈幅広い楽曲を歌うことで、シンガーとして成長できたのでは?〉という質問に対しては、即座に「それはないですね!」という答えが返ってきた。

 「せっかく素晴らしいアーティストの皆さんに曲を作っていただいているので、その方の歌い方からもヒントをもらったり、それぞれの曲に私なりのチャレンジが入ってるんです。でも、聴き返してみると〈そのときの精一杯の声が詰まってるな〉という印象が強いんですよね。私、カッコつけようとすればするほど、上手く歌おうとすればするほど、良くないところが出てしまうんですよ。〈こういうふうに見られたい〉とか、自分で自分を演じようとするのも良くないし……。それよりも、必死になってる瞬間の歌のほうがいいんじゃないかなって。今回のアルバムも、ベースになっているヴォーカルは〈最後にもう一発!〉みたいなノリで録ったものだったり、〈何が正解かわかんないな〉という気持ちのまま歌ったものが多いんです。〈こんなふうに歌いたい〉と考えることも必要だけど、とにかく一生懸命歌うのが大事なんだなって気付いた2年半でもありましたね」。

 今後のヴィジョンについて「アルバム3枚目にして〈ナチュラルに立っている人がいちばんカッコイイ〉と思うようになってきて。30歳になるまでに無駄なものを落として、シンプルな自分で立っていられる大人になりたいです」と楽しそうに語る豊崎。5月から7月にかけて行われる全国ツアー〈豊崎愛生 3rdコンサートツアー2016 The key to Lovin'〉でも『all time Lovin'』の制作スタンスと同様、彼女自身の素直な感情がストレートに表現されるはずだ。

 「〈銀河を散歩中〉というサブ・タイトルを付けた舞浜アンフィシアターのライヴは、360度ステージ。全部丸見えなので〈シンプルに立っていられる自分になりたい〉という気持ちを表現するのにもピッタリだと思うし、その後のライヴの雰囲気にも影響するんじゃないかなって思います。ツアーのコンセプトは〈宝箱〉。お客さんにはぜひ、宝箱を開ける鍵になってほしいですね。ライヴで歌って、反応が返ってくることで初めて曲が完成すると思ってるんですよ。『all time Lovin'』の楽曲にどんなリアクションがあるか、私もとても楽しみにしています」。