2曲にギュッと詰め込まれた彼女の夏!
「もともと音楽は大好きで、たくさん聴いていて。そのなかで〈このアーティストといっしょにやってみたい〉と思う方に曲をお願いすることも多いんですが、そこで生まれる化学変化――〈この組み合わせでどうなるんだろう?〉というところを楽しんでもらえたらいいなって」というスタンスのもと、近年はRie fuやクラムボンの面々、Charaら多くの作家を招いた2013年の2作目『Love letters』や、佐藤タイジ(シアターブルック)とのコレボレーションによる“叶えたまえ”といった個性的な楽曲を発表してきた豊崎愛生。今年最初のシングル“Uh-LaLa”は、つじあやのが作詞/作曲を手掛けた夏の始まりを思い起こさせる晴れやかなロックンロール・ナンバーに仕上がった。
「〈シングルで、季節感がしっかりある曲ってやったことがないね〉という話も出ていたし、今回は思い切り夏っぽい曲を作ってみたかったんです。つじさんのデモはウクレレの弾き語りなんですが、どこかサーフ・ロックを感じさせるコード進行だったので、ヴィンテージ感のあるバンド・サウンドが似合うと思ったんですよね。私の丸みのある声とのギャップもいいんじゃないかなって。そういう〈ハズシ感〉も大事だと思うんです」。
ソロの音楽活動においては「小さな小さな、パーソナルな世界を少しずつ吐露していくイメージ」で制作を行っているという彼女。しかし“Uh-LaLa”に関しては、より開放感のある世界観を意識していたのだとか。
「前回のシングル“ポートレイト”は自分と向き合うようなストイックなテーマだったんですが、今回は良い意味でメッセージがないんです。夏の夜、飲み屋さんから出てきたときの涼しい風だったり、〈子供の頃の夏休みって、予定を立てているときがいちばんワクワクしたよね〉みたいなことだったり。そういうニュアンスを感じてもらえたらいいなって。“Uh-LaLa”という鼻歌みたいなタイトルも、〈伝えたいことは特にない〉ということを意識して付けたんです。そういう作り方は初めてだから、私にとってはひとつのチャレンジですね」。
カップリングの“ほおずき”の作詞/作曲は、bonobosの蔡忠浩。ノスタルジックなメロディーとダブの意匠も施した柔らかなレゲエに乗せて、彼女の歌声は子供の頃の夏祭りのシーンを軽やかに描き出している。
「まさかのレゲエですね! bonobosは以前から大好きなバンドで、いつかいっしょに曲を作ってみたいと思っていて。今回のシングルを〈夏の一枚〉にしたくて蔡さんにお願いしたんですが、〈こんなに素敵な曲をいただいていいのだろうか?〉と思うくらい好きですね。歌詞のテーマは淡い初恋の思い出。アプローチの方法はかなり悩んだんですが、女性の私が〈僕〉という人称で歌うことで、ファンタジー感が増したんじゃないかなって。男性にオクターヴ下のメロディーを歌ってもらってデュエットしたら、すごくロマンティックになると思います……予定はないですけど(笑)」。
〈日本の夏〉をイメージしたというMVやCDジャケットのアートワークにも積極的にアイデアを出すという豊崎。「自分にとっての夏の好きな部分をギュギュッと詰め込みたくて。メッセージはないと言いつつも、私の好みはかなり入ってますね。いまはジャケットの写真にかかる文字の太さについて、ずっと悩んでるところです(笑)」と嬉しそうに語っていたが、彼女にとって音楽活動は、自分自身を多角的に表現できる貴重な場所になっているようだ。
「アニメーションの制作において、声優は〈声〉を担当するひとつのセクション。そのせいか私自身にもスタッフ的な気質があると思うし、作品を作っている過程がいちばん好きなんですよ。音楽の制作を通して、自分のパーソナルなところを出せるのはすごく楽しいですね」。