カール・リヒター(1926~1981)の没後40年記念SACDハイブリッド復刻。リヒター指揮のマタイ受難曲のディスクでは1958年録音の人気が圧倒的に高く、こちらの1979年録音は国内盤では再発自体が約20年ぶり。国際色豊かな歌手陣を揃え、器楽ソロも名手が並ぶ。峻厳で禁欲的な雰囲気をまとう1958年盤とは全く異なる、歩みの遅い沈潜した響きに波打つ情念の大海原、まろやかなアタックが落とす影の濃さ、音楽の揺れのスケールにひきこまれる。〈バッハの使徒〉のイメイジの一方でモーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」を好み、録音機会を切望したリヒターの〈本音〉が垣間見えるドラマ性に富んだ名演奏。