グルーヴィーな演奏とメロウネス溢れる歌声で〈ツマミになるグッドミュージック〉を奏でる4人組、YONA YONA WEEKENDERS(YYW)。メジャー・サード・シングル“Night Rider feat. 荒井岳史(the band apart)”のリリースを2021年8月11日(水)に控える彼らのフロントマン、磯野くんの連載が〈ラーメンから歌が聴こえる〉です。
“R.M.T.T”(ラーメン食べたい、の意)という曲があったり、6月にリリースしたシングル“Good bye”は“R.M.T.T”のモティーフになったラーメン屋の店主への鎮魂歌でもあったりと、自他ともに認めるラーメン好きの磯野くん。この連載では、そんな彼が愛してやまないラーメンを、音楽にたとえながら紹介してくれます。
今回は、東京・梅ヶ丘の世田谷 磯野に入店。音楽界とラーメン界、ふたつの〈磯野〉が出会いました。 *Mikiki編集部
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〈磯野〉と〈磯野〉の邂逅
〈磯野〉という苗字を、僕はとても気に入っている。フジテレビの某国民的アニメのお陰で、インパクトがあり、名前を覚えてもらい易いからだ。
初めて〈磯野〉をイジられたのは、高校時代のバイト先のとんかつ屋でのこと。初出勤の日、そこで働いていた女子大生のギャルから〈あんた磯野って言うの? まじウケる、カツオじゃん〉と言われ、〈あぁ、磯野って苗字はまじウケるんだなぁ〉と認識したと同時に、妙な嬉しさを感じたのを覚えている。
バンド内での表記を決める際も、直球のフルネーム、山崎まさよしさん風に名前だけ平仮名パターン、敢えて名前の〈ヨシフミ〉をフィーチャーしてYOSHIとか、YOSSYとか……などいろいろと考えたが、苗字のインパクトが強すぎて、下の名前はこれまで上司やお客さんに覚えてもらえないことが殆どだった為、最終的には〈磯野〉を全面的に押す形で着地した。
そんな僕とは対照的に、苗字の〈清水〉を押してないことでお馴染み(?)YYWのギターKiichから、〈梅ヶ丘に磯野ってラーメン屋がある〉という情報を入手した。
実は以前にも別の知人から、〈神田に磯野ってラーメン屋がある〉と教えてもらっていたのだが、いつの間にか閉店しており訪問が叶わなかったのだ。調べたところ、2017年の〈神田 磯野〉閉店から約2年の時を経て、梅ヶ丘に〈世田谷 磯野〉として復活したとのこと。
というわけで、今回訪れたのは小田急線梅ヶ丘駅からほど近い場所に店を構える〈世田谷 磯野〉。連載の三杯目にして、早くもバンド界の磯野とラーメン界の磯野が相まみえるという歴史的な回となった。
黒胡椒を振ると、「金八」の上戸彩から「昼顔」の上戸彩に様変わり
現地に到着すると、まず紺を基調としたスタイリッシュな外観に目を惹かれる。暖簾を潜ると、店内のカウンターもまた紺で統一されていた。老舗の〈THEラーメン屋〉みたいな雰囲気も好きだが、こんな洒落た空間で頂く一杯も乙なものだろう。
券売機で磯野醤油支那そば全部のせ(1250円)の食券を購入。店主がワンオペで切り盛りしているが、テキパキとした仕事っぷりで、同行したマネージャーと談笑しているうちにあっという間に着丼だ。
名古屋コーチンで出汁を取っているという無化調のスープを一口すすると、鶏のコクと旨味がぶわ〜っと口の中に広がる。かえしは江戸時代から続く東北の老舗醤油店の生醤油。しょっぱさはさほど感じず、まろやかで甘みがある。あっさりとしたスープだが、目を閉じれば、名古屋コーチンの養鶏場や醤油の醸造場、そこで働くおじさんの姿までが浮かぶようなとても奥深い味わいだ。
麺は自家製のストレート麺。こちらも小麦は岩手県産の〈ゆきちか〉、そして名古屋コーチンの卵を練りこんでいるというこだわりっぷり。上品な小麦の風味が香り、スープとの相性は抜群だ。大判のチャーシューはローストポーク・ライクな綺麗なピンク色。豚の旨味がギュギュっと凝縮されており食べ応えがある。
驚いたのは、何気なく投入した卓上の一味と黒胡椒が、スープの表情をガラッと変えてくれたこと。それは、ボーイッシュだった「金八先生」時代の上戸彩と、大人の色気満載の「昼顔」の上戸彩くらいの変貌っぷりだ。やわらかなスープの面影も残しつつ、絶妙なバランスで全体をピシっと引き締めてくれる。胡椒や一味はもはや割り箸や紙ナプキンと一緒にラーメン屋の卓上に必ず置いてあるものくらいに思っていたが、ここではスープの表情を変化させる為のあくまで厳選されたラインナップなのだろう。味の変化を楽しみながら、あっという間に完食した。
世田谷〈磯野〉や〈星野〉のように、僕も唯一無二の〈磯野〉になりたい
清湯(a.k.a 淡麗系)醤油ラーメンをポップ・ミュージックと例えるならば、世田谷 磯野は、店主のラーメンへの飽くなき探究心と食材へのこだわりが、醤油ラーメンというジャンルをも超越した完全無欠の〈オンリーワン〉。僕は、星野源が2018年にリリースした『POP VIRUS』に重なる一杯だと感じた。
『POP VIRUS』は一見するとライトに聴ける上質な日本語ポップスで、リリースから4週に渡ってオリコン週間アルバム・チャートの1位に輝き続けながらも、実は異常なまでに音楽的に作り込まれているという、かなり攻めた作品になっている。
一体何がどう攻めているのかは、是非各々の耳で確かめて頂きたいが、個人的には、〈逃げ恥〉でお馴染みの2曲目“恋”が〈モータウンの33回転のアナログ・レコードを間違えて45回転で再生しちゃったら〉という発想から生まれていたり、10曲目の“サピエンス”の超タイトなビートが生ドラムだったりと、アルバム全体に散らばる一般人には思いもよらないアイデアにただただ脱帽する。
ソングライターとしても勿論凄いが、シングルカットされている“恋”や“Family Song”のビートを際立たせるため改めてミックスしていたり、MPCプレイヤーのSTUTSを起用していたり、7曲目の“Dead Leaf”には山下達郎のコーラスがサラッと登場したり……星野源の編曲家としてのこだわりも物凄い。
僕のなかで星野源の音楽は、SAKEROCK時代とソロ初期の暖かいアコースティックなサウンドのイメージが強かったが、『POP VIRUS』を一周聴き終えた時、このアルバムは、これまでの親しみやすさは残りつつも、ポップ・ミュージックを超越した革新的でまさに〈オンリーワン〉な作品だなと感じたのだった。
店を出ると、外は梅雨明けの湿気を帯びた嫌な暑さだったが、僕は一本の素晴らしい映画を観た後のような、そんな満足感にじんわり包まれていた。〈星野〉源さんのように、そして世田谷〈磯野〉のラーメンのように、僕も唯一無二の〈磯野〉になりたい。そう思いながら家路についたのであった。
世田谷 磯野
東京都世田谷区梅丘1-9-11
03-5799-7866
RELEASE INFORMATION
YONA YONA WEEKENDERS メジャー・セカンド・シングル“Good bye”
リリース日:2021年6月23日
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LIVE INFORMATION
YONA YONA WEEKENDERS present「INGING TOKYO vol.01」
2021年8月14日(土)東京・渋谷 CLUB QUATTRO
開場/開演:17:00/17:45
出演:YONA YONA WEEKENDERS/the band apart
前売り/当日:3,000円/3,500円(いずれもドリンク代別)
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