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自らプロデュースした2025年最初の新曲
2025年1月28日に配信された“Eureka”(読み:ユリーカ)は、星野源にとって2025年最初のリリース作品である。芳根京子が主演しているTBS火曜ドラマ「まどか26歳、研修医やってます!」の主題歌で、2023年12月にリリースしたシングル『光の跡/生命体』以来1年1か月ぶりの新曲。さらに星野はニューアルバムを今春リリース予定で、詳細は未発表だがそちらに収録される可能性はある。本稿では、そんな“Eureka”のサウンドと歌詞について考えてみたい。
近年の星野源の作品と同様、ありがたいことに“Eureka”も詳細なクレジットがオフィシャルサイトで公開されている。そちらによると“Eureka”をプロデュースしたのは星野自身で、作詞・作編曲も自ら担当。ベース、シンセサイザー、プログラミングも星野。ほかに石若駿がドラムスとシェイカー、櫻田泰啓がピアノおよびエレクトリックピアノ、長岡亮介がエレキギター、という馴染みのメンバーによる強力な貢献で録音されている。
星野源流のクワイエットストーム
プレスリリースで〈星野のルーツにあるジャズやソウルのエッセンスを下敷きに、今を真摯に生きる人々を温かく包み込む様な強さと透明感をもったサウンドに仕上がっている〉と説明されているとおり、“Eureka”は“Ain’t Nobody Know”や“不思議”、“喜劇”、“光の跡”などに連なる星野流のミドルテンポなソウルナンバーで、この路線が大好きな者にとってはたまらない。
〈YELLOW MAGAZINE+〉のインタビューによるとクワイエットストームを意識したとのことで、直接的に言及されているわけではないが、シャーデーの1985年の名盤『Promise』の収録曲“The Sweetest Taboo”が参考音源のような形で記事に埋め込まれている(“The Sweetest Taboo”は歌詞に〈quiet storm〉が登場する。またリズムはソンクラーベの変形で“Eureka”とは異なるが、シェイカーの効果的な使用が共通している)。なるほど、クワイエットストームか、とインタビューを読んで納得した。確かに“不思議”などはもっとビートとグルーヴが立っていたし、和声も独創的だった。それに比べて“Eureka”は、もっと静的だ。
クワイエットストームというのは、ソウルシンガーのスモーキー・ロビンソンが1975年に発表した『A Quiet Storm』に由来するソウル/R&Bのスタイルだ。1970年代中盤、DJのメルヴィン・リンゼイがワシントンD.C.のラジオ局WHUR-FMで始めた選曲が発端だとされている。ラジオ番組で流すのに適したメロウかつスムーズでチルできるサウンドのブラックミュージック、言ってしまえば生活に馴染んで適度に聞き流せるムードの曲である。タワーレコードによるクワイエットストームのコンピレーションアルバムについて音楽ジャーナリストの林剛が書いた下の文章も参照してほしい。
音楽的にはミドルテンポ、反復的なリズム&グルーヴ、抑えめの歌唱、派手な展開のない構成や和声、キラキラしたシンセサイザーやエレクトリックピアノの多用、ジャズやフュージョンの要素、そして歌詞は都市生活や成熟した大人の恋愛についてのもの、といった特徴を指摘できる。それらの組み合わせによって、盛り上がりすぎず淡々としていながらも親密な空気、夜や都会のイメージをまとったムードが醸成される(音楽的にはもちろんのこと、ムードやイメージの統一感というポイントにおいてシティポップやAORとの共通点も見いだせるだろう)。いわゆる〈丸サ進行〉と同じ構造を持つ先駆的なグローバー・ワシントンJr.“Just The Two Of Us”(1980年)も、クワイエットストームに分類されることがある。