ルリー・シャバラ Photo by Wandirana

見えないもの/聞こえないものへの想像力を喚起する試み

 2010年からスタートした京都発の国際舞台芸術祭〈KYOTO EXPERIMENT〉が今年の秋に開催される。昨年はコロナ禍の煽りを受けて延期となっていたが、今年の春に感染拡大防止対策を講じた上で開催。いくつかのプログラムに中止/変更が生じたものの、音楽系のイベントでは、例えば山本精一が総勢35名ものミュージシャンとともに繰り広げた大規模なセッションや、音遊びの会といとうせいこうによるコラボレーションなど、フィジカルな舞台だからこそ生まれる即興的な表現が話題を呼んだ。

 今秋開催される〈KYOTO EXPERIMENT 2021 AUTUMN〉では、声を用いた呼びかけの言葉である〈もしもし?!〉をキーワードに多数のイヴェントが実施されるという。長引くコロナ禍の中、見えないもの/聞こえないものへの想像力を喚起する呼びかけは重要なテーマだと言っていいだろう。その意味でもとりわけ注目したいのが、ルリー・シャバラと荒木優光による公演だ。

 インドネシア・ジョグジャカルタを拠点に活動するデュオ、スニャワ(Senyawa)のメンバーでもあるヴォイス・パフォーマーのルリー・シャバラは、即興的に合唱を構築するシステム〈ラウン・ジャガッ(Raung Jagat)〉を独自に考案したことでも知られている。ジョン・ゾーンやフィル・ミントンからも影響を受けたというシャバラのシステムでは、参加者にハンドサインで指示を与えることでヴォイスをコンダクトし、様々な音楽的/文化的背景を持つ人々が共同で声のアンサンブルを編み上げることを可能にする。興味深いのはテニスコーツも参加する今回の公演ではコロナ禍でシャバラが来日できないため、コンダクター不在の状況でパフォーマンスが行われるという点だ。シャバラ自身の言を借りるならば、それは新たなる〈声の民主化〉の契機ともなることだろう。

荒木優光〈サウンドトラックフォーミッドナイト屯〉アートワーク
©栗原ペダル

 一方の荒木優光はサンプリング主体の音楽グループ・NEW MANUKEや記録をテーマに活動する集団・ARCHIVES PAYでも知られる人物だが、ソロ名義のサウンド・アーティストとしてはこれまで、立体音響を活用して展示/演劇またはサウンド・パフォーマンスが渾然一体となった作品を発表するなど、音と何かしら関わりがありながらも既存の枠組みにカテゴライズすることが難しい試みを行ってきた。そんな彼が今回の〈KYOTO EXPERIMENT〉では、サウンド・システムを搭載して自動車それ自体がスピーカーと化したいわゆるカスタムオーディオカーを多数用い、比叡山の駐車場を舞台に〈コンサート〉を開催するという。だがこれもまた、展示か公演か、あるいは物語の一部なのか、容易には回収できない創造的/想像的な実践となりそうだ。

 


EXHIBITION INFORMATION

KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2021 AUTUMN
2021年10月1日(金)~2021年10月24日(日)ロームシアター京都/京都芸術センター/京都芸術劇場 春秋座/THEATRE  E9  KYOTO ほか
参加アーティスト:ホー・ツーニェン(展示|シンガポール)/チェン・ティエンジュオ(パフォーマンス・展⽰|中国)/荒木優光(音楽|⽇本)/ベギュム・エルジヤス(パフォーマンス|トルコ/ベルギー/ドイツ)/ルリー・シャバラ(⾳楽・パフォーマンス|インドネシア)/和田ながら×やんツー(演劇|⽇本)/フィリップ・ケーヌ(演劇|フランス)/関かおりPUNCTUMUN(ダンス|⽇本)/チーム・チープロ(松本奈々子、西本健吾)(ダンス|⽇本)/鉄割アルバトロスケット(演劇|⽇本)ほか
https://kyoto-ex.jp/