ノイズ音響と映像による即興コラボがいざなう〈ニューてくてく〉スペクタクルとは?
2010年から続いてきた〈KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭2022〉が、今年も10月1日(土)から23日(日)まで開催される。今回が13回目。その名のとおり、「演劇、ダンス、音楽、美術、デザイン、建築などジャンルを横断した実験的な表現」を世界中から集め、「そこから生まれる創造、体験、思考を通じて、舞台芸術の新たな可能性」を探るとともに「芸術表現と社会を新しい形の対話でつなぐ」ことを目指すと謳う(「」内はプレス資料より)このフェス、規模の大きさといいコンテンツのエッジの鋭さといい、世界に冠たる文化都市・京都ならではだ。
そして、今回のキーワードとして掲げられたのが「ニューてくてく」。物理的、時間的、精神的に一歩ずつ自分の足で歩いて思考し、他者とコミュニケイトすることの大切さを日々実感させられる今日、実に的を射たキーワードではないか。
上演プログラムである〈Shows〉、京都/関西地域をアーティストの視点からリサーチし今後の創作基盤につなげていく〈Kansai Studies〉、そしてワークショップやトークによる〈Super Knowledge for the Future [SKF]〉と、コンテンツは大きく3つに分けられるが、ここでは計11演目ある〈Shows〉の中から音楽/音メインの一つだけに触れておく。日本のメルツバウ、フランスのリシャール・ピナス、ハンガリーのバラージ・パンディという前衛音楽家3人と、写真家の志賀理江子によるヴィジュアル・コンサートである。
メルツバウは言うまでもなく秋田昌美が80年代から続けてきたノイズ・プロジェクトで、今や世界中で認知されている〈ジャパノイズ〉の象徴的存在だ。彼は早くから海外の実験音楽家と積極的に交流し、これまでに発表した膨大な数の作品でも海外の音楽家とコラボを重ねてきた。中でも、近年極めて密な関係を築いてきたのがピナスとパンディだ。ピナスは70年代のフレンチ・プログレの代表格だったエルドンのギタリストとして有名だが、80年代以降のソロ活動においても、ディレイとエコーが一体化したような特製エフェクターを駆使したソロ・ギターのレイヤード・サウンドによって、ロバート・フリップ&ブライアン・イーノの世界を更に壮大にした感じの雲海的音響空間を作り上げてきた。パンディは元々はハンガリーのハードコア~スラッシュ・メタル系バンドでドラムを叩いていたが、アーサー・ドイルやワダダ・レオ・スミスといった米国の前衛ジャズ・ミュージシャンとも広く交流し、この10年ほどは秋田とのコラボに特に力を入れてきた。ノイズ成分の多い実験音楽系の現役ドラマーとしては、間違いなく世界で最も著名な一人だ。
写真家の志賀はこの2年間、東日本大震災後に建設された巨大防波堤を歩き続ける人物などを撮影してきたが、今回のヴィジュアル・コンサートは、その映像素材が現場でライヴ編集されて演奏と交わる完全即興コラボ・ワークである。「Bipolar」(双極性の、対極の)と題されたこの演目は我々に、自然と人工、復興と抑圧、そして生と死といった様々な双極を突きつけ、思考の〈てくてく〉を体験させてくれるはずだ。
EHIBITION INFORMATION
KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2022
2022年10月1日(土)~10月23日(日)ロームシアター京都、京都芸術センター、京都芸術劇場 春秋座、THEATRE E9 KYOTO ほか
Bipolar
2022年10月8日(土)、10月9日(日)京都芸術劇場 春秋座
開演:19:00
上演時間:60分(予定)
出演:メルツバウ、バラージ・パンディ、リシャール・ピナス with 志賀理江子
*年齢制限・注意事項:小学生以下入場不可。作品の特性上、大音量の演出があります。
https://kyoto-ex.jp/