先日の都知事選の日(2月9日)に両国のシアターXでなんと4時間ものライヴをやったという土取利行。偶然のいたずらではあるが、まるで、最初からこの日を狙いすましていたかのようではないか。土取は昨年、明治~大正期の壮士演歌の象徴にして近代民衆流行歌の始祖でもある添田唖蝉坊とその息子・添田知道のレパートリーを三味線で弾き語った2枚組アルバム『添田唖蝉坊・知道を演歌する』を〈邦楽番外地シリーズ〉第1弾として発表した。件の4時間ライヴは同シリーズ第2弾アルバム『明治の壮士演歌と革命歌』のリリース祝い、そして、ピーター・ブルック国際劇団の音楽監督として再び長期海外公演に旅立つ彼の壮行会を兼ねたようなものだった。

土取利行 『明治の壮士演歌と革命歌』 立光学舎(2014)

 日本民衆歌の探求と検証をライフワークとしていた盟友・桃山晴衣の遺志を継ぐ形で壮士演歌に取り組んできた土取が、今回の新作で挑んだのは、唖蝉坊の時代から更にさかのぼった幕末~明治の民衆歌である。冒頭に収められたのは、なんと、幕末動乱の戊辰戦争で新政府軍が歌った品川弥二郎(松下村塾出身の長州藩士)作詞の“トンヤレ節”。そして、その品川が内務大臣として弾圧した自由民権運動の炎の中からは、唖蝉坊も一員として名を連ねた壮士演歌集団〈青年倶楽部〉の歌や、その流れを汲む幸徳秋水や堺利彦の平民社運動の革命歌などが生まれていったわけだが、本作ではそういった近代民衆歌の重要な土台に光を当てている。“民権数え歌”“ヤッツケロ節”“デカンショ節”“ダイナマイト節”“足尾銅山ラッパ節”等々、計14曲。力なき、しかし意気軒昂で逞しい民衆たちの労働歌はどれも、辛らつな言葉と親しみやすいメロディの中にピリリとしたユーモアとそこはかとない哀しみを潜ませており、軽やかである。そして、その軽やかさは、江戸小唄からのつながりを確かに感じさせる小粋なノリを湛えた土取の歌(と三味線、太鼓)によって、ほんのりと艶っぽさを放っている。