君の旅がどうか美しくありますように

赤い公園 『THE LAST LIVE 「THE PARK」』 エピック(2021)


まずは、苦しく厳しい状況にもかかわらず赤い公園のラストライブが開催できたこと。そしてそれが最高の仲間たちとの最高の演奏と歌唱とパフォーマンスだったこと。さらにそれがこうしてパッケージ化されるということに対して、デビューから彼女たちを追いかけてきたいちファンとして喜びと感謝の気持ちでいっぱいだ。石野理子、藤本ひかり、歌川菜穂の3人は、いつも通りの会話と演奏をしながら、あくまで前向きに笑顔でバンドを解散させた。それはアンコールのラストの“凛々爛々”に込められたメッセージからも、ラストライブから数か月後に収録されたという副音声の3人の声からも伝わってくる。その一方で、最後のライブが最高の演奏と歌唱とパフォーマンスだったにもかかわらず、津野米咲という大事なパーツが欠けていて、それを最高のライブと呼んでもいいのか?という切なさも同時にある。

また、初回限定盤に付属のCD『津野米咲 demo collection』に収録された未発表曲についても同様で、こうしてバンドの解散後に未発表曲が聴ける喜びと感謝の気持ちはとても大きい。特に、前ボーカリスト脱退後、津野、藤本、歌川の3人体制になった際の唯一のワンマンライブ〈もぎもぎカーニバル〉で本編最後に披露された、ただそこに在ること、いることの難しさを曲に込めた“さらけ出す”や、新ボーカリスト・石野理子加入後の〈Re: First One Man Tour 2019〉のアンコールで披露された“オーベイベー!”といった、重要なタイミングで披露されておきながらこれまで陽の目を見なかった未発表曲が、デモ状態であれ聴ける喜びは非常に大きいものだ。

その一方で、それらの曲がデモ状態ではなくあるべき完成形で聴きたかった気持ちも当然あるし、これが津野米咲という偉大なミュージシャンが最後に遺してくれた形見のようなものなのかと思うとやり切れない気持ちにもなる。特にラストの“EDEN”という楽曲。津野米咲が常に大事にしていてたびたび楽曲中に出てきた幼少期の記憶や、初期の名曲“何を言う”にも登場する〈ごはんの匂い〉というフレーズが登場すること、楽園(=現世のことだろうか?)に〈ばいばい〉してしまう主人公という切ないテーマが、聴く者の胸をきっと強く打つことだろう。

そしてそれらの未発表曲には、津野節という言葉でしか言い表せないような、どこか不思議なところ、変わったところ、明るいのに切ない気持ちになる部分がやっぱり存在している。それこそが彼女の良さでもある一方で、津野米咲が目指すJ-Popにはもしかしたら邪魔だったかもしれないところでもあり、“オレンジ”、そして“pray”という完璧なJ-Popを仕上げてしまった今となっては、こういう少し不思議なところが残っている未発表曲を世に出すことは、もしかしたら蛇足なのではないかという気持ちすらも生まれてしまう。いや、そんなことはない。今は赤い公園の楽曲が1つでも多くこの世に放たれたことを喜ぶべきだろう。

こういう悲喜交々、いろんな感情がグチャグチャになって、またポロっと涙が一粒こぼれそうになる。それでも前向きにバンドを解散させた3人の姿を思い出して、自分も前を向こうと思う。とにかく、赤い公園、たくさんの名曲と思い出を残してくれてありがとう。津野米咲さん、ありがとう。