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自分なりのスタンスで

 本作は、4曲目以降から聴き手を徐々に未知の領域へと誘っていく。“poco a poco (ここは何処?)”はそのタイトル通りのエキゾなムードとラウンジ・ミュージックのテイストを持ったナンバー。リー・ペリーが率いたアップセッターズあたりに通じるある種のいかがわしさが楽しい。

 「“poco a poco (ここは何処?)”は曲名がすぐに浮かんで、イメージしやすく作れた曲でした。いままでにない路線で、個人的にも愛着があります。アップセッターズにも、こういう変なタイトルの楽曲がありますよね。チープと言えばチープな、あの感じがおもしろい」。

 “SKA Glorioso~ARARAGAMA SKA”では、勢いたっぷりのスカを展開しつつ優美なフルートを織り込んだりする取り合わせの妙味が堪能できる。後半に進むにつれて暴れていくオルガンのプレイもアツい。

 「オルガンに関してはジャッキー・ミットゥーに学んだところが大きくて。彼はブルース・フィーリングとロマンティックなところを併せ持っていて、プレイがすごく大胆なんです。その荒削りな感じが“SKA Glorioso~ARARAGAMA SKA”では出せたかなと。普段のレコーディングは抑え気味で演奏していますけど、ここは一発録りで弾き倒しました。それからこの曲は、映画のサントラに書いたものをスカにリメイクして、さらに書き下ろしの曲を繋げています。“Peace Y'all”という曲も最初にスロウで入って後半はまったく別の展開になる。そういう自分なりの実験をいろいろ盛り込みたかったんです」。

 哀愁のダブが展開される“cafe a la dub”には、「30年来の長い付き合いで、ある意味で師匠みたいな存在」だというこだま和文を招聘。音数の少ないダビーな空間を、こだまの凛としたトランペットが切り裂いていく。

 「これは、もともとはTVドラマのために作った曲で、そのヴァージョンはまた雰囲気も違うんですけど、レゲエ/ダブのスタイルにしてみたら意外としっくり来て。そこにこだまさんが吹いているイメージを当ててみたら、ああ、これ完璧だなと。こだまさんはKODAMA & THE DUB STATION BANDでもいっしょにやっていますし、近い存在だからこそ声をかけにくいところもあったんですけど、今回はお願いしちゃおうかなっていう気になったんです。ミックスして出来上がった曲は、こだまさんも気に入ってくれたので安心しました」。

 本作唯一のヴォーカル曲が、ARIWAをフィーチャーした“Ambitious Love”。雄大な風景が想起される、スケールの大きなバラードに仕上がっている。

 「ARIWAさんはKODAMA & THE DUB STATION BANDでトロンボーンを吹いているんですけど、すごく音楽センスが良いので、ぜひ歌ってもらいたかった。声質が素晴らしいですよね。その若い才能の歌をもらえたっていうのはボーナスかな、と」。

 『Let It Shine! Let It Shine!! Let It Shine!!!』が提示するのはレゲエに根差したサウンドだが、リズム・プログラミングからミックスまでを独力で担うスタイルや、洒脱なソングライティングを活かした作風からは、ジャマイカ産のそれともまた違った世界が立ち上がってくる。ここにはデビューから30年、レゲエを探求して辿り着いたオリジナルな音楽が詰まっている。

 「レゲエに関してはまだまだ技を極めていかないといけないし、理想に近付きたいなといつも思っています。家で聴いている音楽も9割方ジャマイカン・ミュージックですし。ただ、そこで〈ひたすらレゲエを研究して真似る〉というやり方もありますけど、自分のやることではないなと。HAKASE-SUNなりの方法でレゲエをやりたい。自分のようなニュアンス、スタイルでやっている人は世界にもあまりいないだろうし、だったら伝統芸能的にこのスタンスで続けていきたいと思っています」。

『Let It Shine ! Let It Shine !! Let It Shine !!!』に参加したアーティストの作品を一部紹介。
左から、EGO-WRAPPIN' AND THE GOSSIP OF JAXXの2009年作『EGO-WRAPPIN' AND THE GOSSIP OF JAXX』(Minor Swing/トイズファクトリー)、YOSSY LITTLE NOISE WEAVERの2018年作『Sun and Rain』(BUS)、ウンチャカの2010年作『すきなうた うたったり』(IINODA)、Matt Soundsの2017年作『Matt Sounds』(OVERHEAT)、Xavierの2021年の7インチ・シングル『Call In Sick feat. chelmico/球体 feat. 塩塚モエカ』(Pヴァイン)