約2年ぶりにオリジナルアルバム『unconditional L♡VE』をリリース。倉木麻衣が本作で掲げたテーマとは。楽曲から透けて見えてくるこのテーマからアルバムの魅力に迫ってみた。

2019年にデビュー20周年を迎え、4月からはアニバーサリーイヤーを飾る全20公演のライブがスタート。8月には12作目となるオリジナルアルバム『Let's GOAL!~薔薇色の人生~』を、12月には自身初のシングルコレクション『Mai Kuraki Single Collection ~Chance for you~』をリリースし、充実のデビュー20周年が過ぎていった。2020年にはコロナ禍で人々の様々な生活や活動に支障をきたす中、トレジャーブックやDVDのリリース、ライブ配信など、制約された中でも〈表現〉することを止めずに発信し続けている。

そして2021年。約2年ぶりとなるオリジナルアルバム『unconditional L♡VE』がリリースされる。世界中の人々が普段通りの生活ができず、人と接することが難しい日々の中でも、〈音楽で癒しや温かさ、愛を感じ、ネガティブな気持ちを少しでも軽くしてもらいたい〉という想いで制作されたのが本作である。

倉木麻衣 『unconditional LOVE』 NORTHERN MUSIC(2021)

『unconditional L♡VE』=〈無条件の愛〉ということで、倉木麻衣の〈そばに寄り添う〉歌詞世界がアルバム全体を通して表現されているが、その中にも〈気付かれずとも想い続ける〉というエッセンスが表現されている曲もあり、〈無条件の愛〉の世界観がバラエティ豊かであることを感じさせる内容となっている。楽曲ごとに様々なタイアップがあって、その世界観もそれぞれの楽曲ごとに異なる中、アルバムを通して聴くと不思議と一貫した流れで聴ける。そのバランスの良さは、倉木麻衣の表現の幅広さゆえに感じられるものだろう。

それではアルバムの内容を1曲ずつ見てみよう。R&Bテイストやポップソング、エレクトロサウンドからスタンダードなナンバーまで、全編を通してジャンルレスに幅広い楽曲で構成されているが、どの曲も歌詞にぴったりとはまるサウンドになっている。

アルバム冒頭を飾る“unconditional L♡VE”、“UNBREAKABLE”は、倉木自身のバックボーンと言えるR&Bテイストの楽曲で、グルーヴィーなサウンドが特徴だ。“UNBREAKABLE”ではラップにも適応し、とてもゴージャスな仕上がりの1曲と言える。

ABCテレビ10月期ドラマ「ムショぼけ」主題歌でもある“ONE LOVE”は〈ネガティブな気持ちを少しでも軽くしてもらいたい〉という本作のテーマを象徴するような楽曲。続く、水ドラ25「ラブコメの掟~こじらせ女子と年下男子~」の主題歌でもある“Can you feel my heart”は、〈完璧でありたい〉という気持ちと〈本当の自分を見てほしい〉という2つの正直な気持ちを表現したと本人がコメントしている通り、倉木麻衣がこれまで紡いできた印象の通り、まさに〈倉木麻衣印〉の楽曲だ。

続く“Wで包むよ”(「クレバリーホーム」CMソング)は、フリーソウルのような爽やかなサウンドの楽曲で、そのポップチューンに心が軽く温かくなるようなボーカルが溶け込み、親しみやすく心地よい仕上がりになっている。そこから一転、「名探偵コナン」エンディングテーマでもある“ベロニカ”に移ると、エキゾチックなチューンに。想いが直接届かずとも、どのような時でも見守り続けるという意思を感じさせる歌詞が楽曲に見事にマッチしている。

アルバム後半に差し掛かり、7曲目の“TOMORROW”(「劇場版オトッペ パパ・ドント・クライ」エンディングテーマ)は、一緒に口ずさみたくなるような歌いやすいサビの歌詞と、ユラユラと浮遊感を感じる宇宙的なサウンドが印象的。続くのは、サンリオキャラクター、Wish me mellとMVでコラボした“ひとりじゃない”。元気が欲しい時に聴きたくなるような、ハートウォーミングなサウンドと寄り添ってくれる歌詞の1曲だ。

9曲目の“It's never over”は、エレクトロサウンドで音の抑揚をつけながら、〈負けないで また歩いていこう〉と背中を押してくれる歌詞が歌われる。続く“Proof of being alive“のピアノ伴奏のみから始まりストリングスが入っていくさまは、まるでハリウッド映画のエンドロールに流れる主題歌のようにも感じられる壮大なスケールだ。

“セーラー服と機関銃”、“スローモーション”などを作曲したことでもおなじみの来生たかお作曲によるスタンダードナンバー“Sea wind“は、ゆったりとした流れにおいて倉木の歌声と歌詞が一層際立つ楽曲。倉木の表現力の豊かさを実感でき、本作の中でも新しい一面を垣間見せるような1曲だ。そしてラストは、「名探偵コナン」のオープニングテーマでもある“ZEROからハジメテ”。〈ポジティブな気持ちになって頂けるよう渾身の想いを込めて制作した〉という本人コメントからもうかがえるように、縦ノリのビートを中心に、途中ブレイクを途中入れるなど緩急を織り交ぜたアップテンポなナンバーで、リスナーを前向きな気持ちにさせていく。

各楽曲と真剣に向き合いながらベストを尽くして、試行錯誤して生まれたアルバム『unconditional L♡VE』。最初の言葉通り、全ての曲が〈音楽で癒しや温かさ、愛を感じ、ネガティブな気持ちを少しでも軽くしてもらいたい〉という力を持っているし、聴く人や場面を選ばず、聴く人の背中を一押しする、聴く人にそっと寄り添ってくれる、そんなパワーを持った会心作と言えるだろう。