日本のフリージャズの草分け的存在、沖至の2017年鹿児島県喜界島でのライヴ音源!
昨年8月に78歳にしてこの世を去った稀代のトランペッター・沖至。本盤は2017年9月に鹿児島県喜界島のライヴハウス〈サバニ〉で、彼が川下直広(ヴァイオリン/テナーサックス)、波多江崇行(ギター)とともにトリオ編成で行ったセッションを収録したアルバムである。リリース元はフリージャズやチンドン、フォーク、民謡等々のカタログでも知られるレーベル、オフノート。
表題曲となっている1曲目”Oogomadara”は、約20分にわたる即興演奏が三者の溢れ出る創意を聴かせる。ギターのアルペジオをバックに、ヴァイオリンとトランペットがまるで蝶が舞うようにひらりひらりとメロディとノイズを行き来する。次第にギターも自由に逸脱する。だがフリー・インプロヴィゼーションのマナーに則るわけでもなく、後半ではジャズ・スタンダード”Lush Life”が自然発生的に浮かび上がっていく。続く2曲目”Luisiana Red”ではより激しい即興がダイナミックに響くが、やはり後半で探り合うようにメロディを奏でると、沖至のオリジナル曲がスウィンギーに展開される。
3曲目はジャズ・スタンダード“Round About Midnight”で、テナーサックスがテーマを渋く歌い上げると、トランペット、ギターとアドリブ・ソロを回していく。前半2曲で不定形なセッションの中に楽曲のフォルムが浮かび上がる妙味を聴かせるのだとしたら、ここでは反対に楽曲のフォルムに留まりつつも節々で逸脱する自由なスタンスが面白い。「どうもありがとうございました」とアナウンスが入った後、アンコールだろうか、4曲目でシャンソンの名曲“Hymne à l’amour”が短く添えられる。ギターをバックにサックスとトランペットが対位法的に絡み合う様は祈りのようでもあり、締め括りに相応しい内容だ。
沖至の没後、フリージャズと絡めて70年代の彼のアルバムが振り返られることが多かったように思う。だがおよそ半世紀の活動を経て到達した響きを聴き逃す手はない。〈名盤〉として評価が固定化される手前の、しかしながら自在境で奏でられる響きを。