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メッセージ性なんて持ちたくない、ただ気持ちよくトリップしたい

――Barbican Estateの音楽は、感情を削いだようなミニマルなビートや、有機的で爆発力のあるギターノイズ、どこか浮世離れしたメロディーや弦の使い方など、さまざまな要素が混ざり合ったサウンドが印象的です。最初からそのような音楽性をめざしていたのですか?

Toneri「結成当初はコンピレーションアルバム『No New York』(78年)のようなノーウェイブからの影響が強くて、いまよりもっと無機質な感じ。そこに初期のソニック・ユースのような変則チューニングのギターを重ねたサウンドでした。

そこからサイケだったりフォークだったり、いろいろな要素を加えていって、どこにでも転がっていけるようなイメージで作ったのがファーストEP『Barbican State』(2020年)。

そのうえで、自分たちにとって何がいちばん楽しいのか、どの要素をどう組み合わせたらおもしろいのかを、試行錯誤した結果が今回のアルバムですね」

『Way Down East』収録曲“The Divine Image”
 

――試行錯誤したうえで、どのような作品を作りたいと思っていたのでしょう?

Miri「直接的にでも間接的にでも〈コロナ禍の2021年の東京〉について歌った曲って、たくさんあるじゃないですか。そういうものとは距離を置きたいと思っていました。どうやったって出てしまうものだとも思いつつ、できるだけ〈時代〉や〈場所〉を感じさせない作品を作りたかったんです」

――それはどうしてですか? 現実からのエスケイピズムとはまた違う気がするのですが。

Miri「第一には、何歳になっても演奏したいから。初期衝動だけではない、ずっとやり続けられる曲を作りたいんです。そう考えたときに、サウンドも歌詞も歌い方も、必ずしもいまこの瞬間を反映したものである必要はないんじゃないかと」

――その答えは実に興味深いです。というのも、みなさんは壮絶な歴史のなかで文化がどう変化していったかに深い関心を持っているし、Barbican Stateの歌詞も、現在の抑圧された社会からの解放を訴えたり、取るべきアクションを提示したりしているようにも思えるからです。

Miri「解釈は何だっていいんです。実際に曲を作っている過程においても、現代社会の抱える問題がちらつかないわけではない。でも、そこまでガチガチのメッセージ性はなくて。あえてもっときつい言い方をすると、メッセージ性なんて持ちたくもないんですよね」

Toneri「強いメッセージがあると思われることは多いんですけど、実際はまったくないです。僕が好きな哲学者や思想家の言葉をただ引用して、いい感じに切り貼りしているだけ。おもしろおかしくサンプリングしているような感覚ですね。だから歌詞について訊かれるのは苦手。確かに、〈過去の偉人たちの言ったことが、いまの自分たちの現状とリンクしているから引用しているのでは?〉と言われたらそうなのかもしれない。けれど、そこに強い自覚や意志はなくて、ほんとうにただ口から出ているだけなので(笑)」

Miri「サウンドや歌っていることは相対的には暗いように思いますけど、実はすごく明るいというか、楽観的に曲を作っているバンドだと思います」

――アーティストとしてリスナーを救う可能性を持った音楽を作りたい、といった気持ちはないのですか?

Toneri「うーん……僕自身には受け手としてもそういうエピソードがまったくなくて。単なる〈作られたもの〉や〈事象〉としてすごく興味があるんですけど、それ以上でも以下でもない。だからドライな人間と思われても仕方がないのかもしれません。でも、決して適当に処理しているわけではないという自負があるうえで、こうして作品を世に出しているわけですから、どう捉えていただいても構いません」

Hamada「プレイヤーとしてリスナーとして、ただ気持ちよくトリップできる曲が作れたのなら、意味なんてどうでもよくて。それが良いのか悪いのかはわからないですけど」

Toneri「だからHamadaは信用できるんです。彼はいつだってトリップできる領域をめざしてドラムを叩いてくれる。もし上手くいかないときは、そのプレイではなく曲に原因があると判断してボツにします。制作において、Hamadaは質の良い物差しのような存在ですね」

Miri「2人はアートに対して〈救われた〉みたいなベクトルでは感情が揺れないタイプ。完全にデータ型なんですよ。私は建物を観たり音楽を聴いたりすると、すぐにエモーショナルになるので、2人のそういう部分はいまだに謎だらけです(笑)」

――となると、今作のテーマ〈西洋から東洋への魂の浄化への旅〉も現実の経験に由来したものではない?

Toneri「そうですね。これも単に、大学の卒論でテーマに選ぶくらい古代ギリシャの文化が好きだから。当時のギリシャ人が東のインドに向かう道中で、さまざまな土地の人々と交流や交易をしたり、その結果あるギリシャの王様が仏教に改宗したり、そういった感じで東西の異文化が混ざり合って新しい文化が出来ていく様子を調べることに没頭していた時期があったんです。それで、いつかそういう時代の流れをコンセプトにした音楽作品を作りたいと、前々から思っていました」