大場つぐみ(原作)× 小畑健(作画)最新作
神候補に選ばれた少年と、12人の候補者たちの人間ドラマ

高橋秀弥, 入野自由 『プラチナエンド1』 ポニーキャニオン(2022)

 もし、あなたの前に突然天使が現れて、「あなたは次の神候補に選ばれました。天使の力を与えるので、他の神候補と争ってください」と告げられたら、どう行動するだろうか? あまりにも突拍子もない話すぎて想像できないかもしれないが、その夢物語を綿密な思考実験によって高品質なエンターテイメントに磨き上げたのが、このたび映像ソフト化されるTVアニメ「プラチナエンド」だ。

 「DEATH NOTE」「バクマン。」などのヒット作を生み出してきた、大場つぐみ(原作)× 小畑健(作画)のタッグによる人気コミックをアニメ化した本作。主人公の少年・架橋明日(CV:入野自由)は、人生に絶望して飛び降り自殺を図ったところ、天使のナッセ(CV:小倉唯)に救われ、〈天使の翼〉と〈天使の矢〉の能力を授かる。さらに彼と同じく天使の力を得た人間が全部で13人いること、最終的にその中からの1人が次世代の神に選ばれることを知らされる。〈生きる希望〉を取り戻し、ただ幸せであることを望む明日、彼の幼馴染で同じく神候補となった花籠咲(CV:M・A・O)、正義のヒーロー・メトロポリマンに扮して天使の力で犯罪者を裁く一方、自らが神になるために他の神候補を殺害・排除していく生流奏(CV:石川界人)――他にもさまざまな境遇のもと天使の力を扱う神候補たちが登場し、それぞれの思惑と正義が絡み合いながら、物語は思いもしない方向へと進んでいく。

 主人公が人知を超えた超能力を得る点では、名前を書いた人間を死に至らしめる死神のノート〈デスノート〉を題材にした「DEATH NOTE」に通じる部分がありつつ、同様の能力を持った者が複数人登場することで人間ドラマの要素がさらに強化され、なおかつデスゲーム的な緊張感、サスペンス要素も深まったのが、本作の魅力の最たる部分と言えるだろう。そのうえで特筆したいのは、主人公・明日のキャラクター性だ。彼は自らが得た天使の力の強大さに決して溺れることなく、あくまでも自身と身の周りの人々のささやかな幸せを守るために能力を使い、行動する。その平和主義的な性格がゆえに、敵を傷つけることすら極端に嫌い、葛藤する場面も見られるわけだが、彼のともすれば人間的な弱さにも繋がる謙虚さ・善性こそが、あらゆる〈正義〉が対立するこの物語に一筋の光明をもたらすのだ。それはもしかしたら現実社会の出来事に置き換えても有効かもしれないし、そんな想像を膨らませてくれる〈思考実験〉としての楽しさが、このアニメには凝縮されているように思う。