プリクラをアー写に用いた4人組バンド、東京初期衝動。そのギャルギャルしいヴィジュアルに反するように、バンド名はGOING STEADYが2001年に代々木公園で行ったフリー・ライヴのタイトルから取られている。2017年、しーなちゃんが友達に誘われて行った新木場STUDIO COASTで観た銀杏BOYZに衝撃を受け、2018年春には自身でも音楽を始めるようになった。そんな原体験がバンド結成のきっかけになっている。その音楽性もまたゴイステ~銀杏BOYZ直系のパンク・ロックであるが、このたび自主レーベルのチェリーヴァージン・レコードからリリースされたセカンド・アルバム『えんど・おぶ・ざ・わーるど』において、彼女たちは音楽性におけるアイデンティティーの糸口を掴み、独自の道への一歩を歩みはじめた。

東京初期衝動 『えんど・おぶ・ざ・わーるど』 チェリーヴァージン・レコード(2022)

 前作『SWEET 17 MONSTERS』から変化したことはいくつかあるが、2020年11月に新しいベーシストとしてあさかが加入したことは重要な点だ。メンバーの中で最年少ながら、人懐っこく、演奏面でも力強くまっすぐなベースでバンドの屋台骨としての存在感を放っている。本人たちもライヴで「東京初期衝動の第2章が始まった」と宣言していたように、外から観ていても明らかにバンドの雰囲気が変わったと思える瞬間は多い。

 もう一つ大きな変化は、しーなちゃんが担ってきた楽曲制作に、他メンバーや外部ミュージシャンたちによる要素が加わったことだ。どこかシャイで、心のATフィールドが存在していたしーなちゃんの熱がライヴや音源での爆発力へと繋がっていた部分もあったが、本作ではメンバー以外との関わり合いが作品に昇華されている。

 それが顕著なのは、曽我部恵一と共作/共演した楽曲“銀河”だ。2021年に対談インタビューで初めて接点を持った両者だが、曽我部は対談で〈この人はこの音楽をやらずにはいられなかったんだろうなみたいな一生懸命さが1番大事だと思っていて。そういう部分が詰まっている音楽だなと思ったんです〉と東京初期衝動の音楽を評している。曽我部がメロディーを作り、しーなちゃんが詞をつけたという同曲は、これまでの東京初期衝動にはなかったようなメロディックなスローバラード。しーなちゃんと曽我部のコーラスに希の特徴的なギターの音色が加わることで、これまでにない機軸でありつつも東京初期衝動らしさを持った楽曲へと仕上がっている。

 また、初めてサウンド・プロデューサーに江口亮を迎えて制作されたアルバム冒頭の“腐革命前夜”も本作を強く印象付けている。静かなギター・アルペジオから始まり、サビで一気に爆発する同曲はバンドに緩急を与え、楽曲の良さを最大限に引き出している。その構成とアレンジによって、初期衝動に満ちた楽曲のエネルギーとポテンシャルがこれまで以上に魅力的に響いている。

 そして、本アルバムには、希が作曲した“ボーイズ・デイ・ドリーム”、あさかが作曲した“山田!恐ろしい男”も収録されている。これまでしーなちゃんが楽曲制作を担ってきただけに、そこも大きな変化だ。さらに、ドラムのなおは本作の制作過程でDTMを覚え、メンバーたちのデモをバンド・ヴァージョンへとエディット。ピアノでしーなちゃんのガイド・ヴォーカルも作るなど、音楽制作において重要な役割を果たしている。

 彼女たちの目に見える変化を一言で記すとしたら、『えんど・おぶ・ざ・わーるど』を作る過程において、東京初期衝動は〈バンド〉になった、ということだ。しーなちゃんはメンバーに対して、メンバーはしーなちゃんに対して、音楽制作においてどこか気を遣っている部分もあった。しかし、本作では全員が東京初期衝動の音楽に向き合い、バンドの現在を音楽作品として妥協のないものに作り上げた。その気合いが、16曲入りのアルバムという昨今では珍しいくらいのヴォリューム感へと繋がっていることは間違いない。見た目やSNSでの炎上などの色眼鏡で彼女たちを観ていたら本質を見誤るだろう。本作で東京初期衝動第2章のヴィジョンを掴んだ彼女たちが、音楽でどんな暴れっぷりを見せていくのか。いまならその快進撃を一緒に目撃できることだろう。まずは再生ボタンを押すことをオススメする。

 


東京初期衝動
しーなちゃん(ヴォーカル/ギター)、希(ギター)、あさか(ベース)、なお(ドラムス)から成るロック・バンド。2018年4月に結成され、7月に初のワンマンを開催する。2019年4月に初音源となるEP『ヴァージン・スーサイズ』を発表。同年11月にファースト・アルバム『SWEET 17 MONSTERS』をリリースし、初の東名阪ツアー〈ロックンロールは鳴り止まないっツアー〉を行う。2020年3月より〈東京初期衝動の全国逆ナンツアー〉を開催し、4月に『LOVE&POP』をリリース。同年11月より現体制となり、2021年には各地のフェスやイベント出演を通じて話題を集めた。このたびセカンド・アルバム『えんど・おぶ・ざ・わーるど』(チェリーヴァージン・レコード)をリリースしたばかり。