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芯にあるスピリット

 そんな『Soul Letters』のオープナーとなるのは、荒んだ世にメッセージを投げかけるブルージーな“Love Remedy”。ここで隠しようもなく滲み出てくるのはレニー・クラヴィッツを思わせる骨太なソウル・フィーリングだ。仮に前情報がなかったとしても、オーレの作品にこれまで親しんできた人なら、このオープニングだけで過去作との違いを予感するはずだし、手紙の書き出しにこの曲を選んだ彼の狙いも透けて見えてくるのではないだろうか。そう思えば、先行カットされていたグルーヴィーなミッド・ファンク“Just For A Little While”も濃密なうねりの奥にレニーっぽさを感じることができる一曲だ。一方でホーンを穏やかに従えたトラディショナルなソウル作法の“At My Best”もいままでになかったスタイルで、チャレンジの方向も一辺倒ではない。

 そうやって野心的に新機軸のサウンドが追求されていくなかにも、従来のAOR目線でも親しみやすい“Ready To Hold You”があり、ここでもスティーヴィー・ワンダー風の節回しが耳に残る……と書けばコンセプトに引っ張られすぎかもしれないが、そこかしこに見え隠れするレジェンドの影響は「他にも好きなアーティストはいるけど、スティーヴィー・ワンダーからは確実にずっとインスピレーションを受けている」と本人も認める通りだ。同種の大らかな螺旋を描くメロディーラインは、オルガンの温かみがエリック・ベネイを想起させる“Without You”、ラテンっぽくも響くリズミックなギター主導の展開から雄大にスケールアップしていく“Coming Home”あたりでも聴くことができる。

 また、本人のアコースティック・ギターで切々と歌われる“Can't Let Go”は亡くなった義父についての曲だそうで、「歌詞の面でも〈ソウル〉を意識した」というアルバムのパーソナルな色調を象徴する繊細な新機軸だろう。

 そして、そんな意欲作のラストに控えるのは、敬愛するダニー・ハサウェイっぽい歌い出しからかつてなくエモーショナルに魂を昂らせていく真摯なバラード“Lead The Way”。ゴスペル的な言い回しの曲名からも察せられるように、もともとフォークやゴスペルを歌う音楽一家で5歳から歌いはじめたオーレの芯にあるスピリットが存分に感じられる感動的な名曲だ。

 「このアルバムをもっとソウルな作品にすることを考えた結果、いままで以上にヴォーカルを重視することになった。それと共にブルースやゴスペルの要素も前に出てきたという感じだね」。

 時代の背景や社会の状況にも背を押されてソウルと向き合い、新たな姿を披露したオーレ。深みを増していく今後の表現にも期待せざるを得ないだろう。

 

オーレ・ブールドのハード&ヘヴィーな近作。
左から、在籍するエクストルの2013年作『Extol』、フレッシュキラーの2017年作『Awaken』(共にFacedown)、客演したコグニザンスの2019年作『Malignant Dominion』(Prosthetic)

 

オーレ・ブールドの作品。
左から、2008年作『Shakin' The Ground』、2011年作『Keep Movin』(共にOBM/Connection/Village Again)、サミュエル・ユンブラードとの2012年作『Someday At Christmas』(Connection)、2013年のベスト盤『The Best』(Village Again)、2014年作『Stepping Up』、2019年作『Outside The Limit』(共にOBM/Connection/Village Again)