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見よう見まねで弾き語りを始め、声を活かせる2人と出会った真琴

――2人とも早くから楽器を始めて、そこから好きな音楽が形成されていったんですね。そこに真琴さんが入ったのはどんな経緯ですか?

Yoshinao「真琴はその時、ライブハウスでピアノの弾き語りをしていて。それを見た僕がとにかく感動して、すぐに誘いました」

真琴「私は石川県の出身で、音楽専門学校に通うために新潟に来ました。ピアノも歌もそこから始めて、見よう見まねで弾き語りしていたのを見て声をかけてくれました。だから2人と違って音楽のオの字も知らなかったし、話に出てきたアーティストも全然わからなくて」

――専門学校まで音楽を自分でやることはなかったんですか?

真琴「なかったですね。高校ではワック(WAACK)っていう腕を鞭のように振り回すダンスをやっていました」

――どういう音楽を聴いていたんですか?

真琴「小さな頃に好きだった記憶があるのは母が流していたMISIAさんとか。専門に入ってからはEGO-WRAPPIN’を知ってよく聴いていました。腹の底から声が出ているような、感情がむき出しの歌には惹かれますね。

でも2人が教えてくれる音楽は、ボーカルが飛び出してなくて、他の音に交じってちょうどいい感じのものが多い。いつも新鮮です」

――ではお2人から教えてもらった中で真琴さんもハマったアーティストはいますか?

真琴「うーん、難しいですね……」

CHIPPI「難しいの(笑)?」

真琴「ダンスをやっていた時のリズムの感覚としてジ・インターネット(The Internet)は好きでした。ボーカルもそれほど張り上げてはいないけど、伸びのあるファルセットが気持ちいいです」

ジ・インターネットの2019年作『Hive Mind』収録曲“Come Over”

――お2人とはかなり違う背景ですね。なのに一緒にバンドをやろうと思えたのはなぜでしょう?

真琴「ポップで明るくて、突き抜けるような歌に憧れがあったんですけど、なんか私の声に合わない気がして悩んでいたんです。

でも2人と作った曲をやってみると、ウィスパーっぽい声の出し方がうまくいったり、繊細に歌う部分のメロディーもすごく自分に合っている。話していても、自分の声をちゃんと武器にしてくれる気がして、一緒にやりたいなと思いました」

――CHIPPIさんとYoshinaoさんから見て真琴さんの歌の魅力は何だと思いますか?

CHIPPI「明るい歌が合わないと言っていましたが、むしろ明るさと暗さ、どちらもあるところがすごいと思っていて。ポップに突き抜けるわけでもなければ、ダウナーにもならない絶妙なバランスだから、もどかしくてグッとくるんですよね」

Yoshinao「声のレンジもすごく独特で、最初に出会った時からオンリーワンな声を持つ人だなと思っていました。E.sceneの誇れる部分です」

真琴「私はすごく感情的になりやすくて、起伏が激しいから、色んな声が出るのかも」

――すごくスモーキーでたゆたうような声はE.sceneを象徴するものですが、真琴さんにとっては素直に感情を表現している感覚なのがおもしろいですね。

 

試行錯誤を重ね、自分たちの音楽に腹をくくった

――またボーカル、ドラム、ベースの3人編成であることも大きな特徴です。シンセの音も入っていますが、ライブではどうやっているんですか?

CHIPPI「全て同期でやっています。E.sceneを組んだ時に自分が同期を作る機材を導入して、今のスタイルになりました」

――3人であることに何か狙いがあったんですか?

CHIPPI「ギターやキーボードを入れたい気持ちも最初はありました。でも単純になかなか見つからなくって。真琴も弾き語りでピアノをやっていましたけど、E.sceneの音楽とはプレイスタイルが違う。だから3人で出来る方法を試行錯誤しました。もしメンバーが入っていたら、今とは全然違うバンドになっていたと思います」

――なるほど。今回の『Found me』は約1年ぶりのEPですが、前作『in the room』(2021年)はみなさんの中でどういう位置づけでしょう?

CHIPPI「自分たちの音楽に腹をくくったというか、一区切りついた作品だと思っていて。ここから背伸びをせずに、等身大の姿や内面を素直に出していこうとなりました」

2021年のEP『in the room』

――腹をくくったとは、どういう意味でしょう?

CHIPPI「初めて発表した“麗しい日々”と“いいじゃん”はバンドを結成して試行錯誤しながら作った最初の曲だったんですけど、その2019年の段階で〈ROOKIE A GO-GO〉から〈FUJI ROCK〉に出演したり、〈SUMMER SONIC〉(〈出れんの!?サマソニ!?〉)でも最終選考まで行かせていただいたりしたんです。ライブのオファーも増えたし、本当にありがたいことでしたけど、〈こういう音楽をやっていこう〉と話し合うこともないまま、目の前の予定に追いつくのに必死になってしまって。〈E.sceneってどんなバンド?〉って訊かれても、自分たちでうまく説明できない状態だったんです。

そんな中でコロナ禍になって、予定はかなり飛んでしまったんですが、3人で話し合える時間は出来ました。だから初めてこのバンドについてちゃんとやりたい方向性を決めることが出来たというか」

〈FUJI ROCK FESTIVAL ’19 ROOKIE A GO-GO〉でのライブ動画

――どういうことを決めたんですか?

CHIPPI「もっと自分たちから自然に出てくるものを大事にしようというのが一つ。それまで曲調とサウンドを決めるのが先で、後からテーマや歌詞を考えて意味づけしようとしていたんです。なかなか出来ないし、伝えたいこともぼんやりしていたと思います。あとレコーディングも全然こだわれていなかったので、改めて音の録り方やミックスについて学び始めた中で『in the room』が出来ました」

Yoshinao「そのあとシングルで2曲出したんですけど、“forgotten sun”(2021年)では初めて自分たちだけで全部レコーディングを完結させたんです。どういう音で録って、ミックスではどういう風に仕上げようというところまでやっと考えられるようになったんですね」

2021年のシングル“forgotten sun”

――ちなみに“forgotten sun”ではどんな音を目指しましたか?

CHIPPI「それまでダークな印象の曲が多かったので、温かい曲にしたかった。あとドラムとベースとボーカルだけの部分が多い曲だったので、3人の音のまとまりをより出したいなと考えていました」