
一つの曲の解釈は一つでなくていい
――だから“happyend|幸せな結末”までのアルバム収録曲には、日本語と英語のタイトルが付いているんですね。このアイデアはどこから来たのでしょうか?
鈴木「海外の昔の映画や小説には、母国語のタイトルに対して、直訳ではない日本語タイトルがついていることが多くて、なんでこうなったんだろうと考えるんですけど、翻訳者が作品をピュアに解釈しようと挑んだ結果の表現だと思うとおもしろくって。作品について感じたことが一色だと自由度がないし、一つの曲を指すタイトルも一つでなくていい。より多様に感じてもらいたいという意味も込めてタイトルが二つずつあります」
井上「聴く人によって全然違うように捉えられる歌詞が今回多いので、そういう意味でも副題がついたことで、より入り口が広がるような気がします」
――〈英語|日本語〉だけではなく逆のパターンもありますね。
鈴木「左がメインタイトルで曲が出来たときのものです。それに対してもう一つの解釈を当てているのが右ですね」
礒本「作品に向けた曲が揃っていくのを見ていると、迅はアルバムというより一つの映画を作ろうとしているみたいだなと思っていました。またそのときすごく映画に凝っていたし」
――どんな映画を観ていたんですか?
鈴木「フランソワ・トリュフォーの『恋のエチュード』(71年)という映画があって。〈ロウソクの3部作〉と言われているなかの一つなんですが、あまり予兆を感じさせず、フッと人が死んでしまうストーリーで。灯っていた生命が消えてしまうことに関して、自分も興味があった時期だったし、アルバムのコンセプトにも影響したと思います。『roman candles|憧憬蝋燭』というタイトルもそこからつけました」

歌が自由に泳いでいる感じを出したかった
――また、これまでは川島さんのボーカルもこのバンドの大きな武器でしたが、今回は井上さんのみが歌っていることも、この作品の重要なポイントだと思ったのですが。
鈴木「アルバムの物語が一人称で進んでいるので、男女の声が出てくるとコンセプトとずれてしまう部分が出てくるから今回は振り切りました。川島の声はエモーショナルなので熱を帯び過ぎてしまうだろうなと。それとボーカルが2人だとどうしてもずれないように合わせることに配慮がいくんですけど、今回は歌が自由に泳いでいる感じを出したかったというのが理由ですね」
井上「私にとっては、前作に比べてキーが低くて、より自然体で歌える曲が多くなりました。静かで軽いけど情熱を感じられるというのが今回のテーマだったから、その表現はやりやすかったですね。相反する感情が出せたんじゃないかなと思います」
――確かに前作の“lookback&kick”や“rendez-vous”やみたいに力強く攻める曲は1曲もない。
井上「あとはほぼ全曲、コーラスをたくさん重ねているのが特徴ですね」
礒本「曲の緻密さとは裏腹に、すごく淡々と歌のトラックを重ねている作業は見ていておもしろかったですね」
川島「わんこそばみたいにどんどんレコーディングしてた(笑)」
鈴木「一色じゃない感情を細かいレベルでコントロールできるようになっていると思いました。基本的に囁くような歌い方という一貫したカラーがあるのに、ちゃんとグラデーションが描けているのが頼もしかった」