(左から)鈴木迅、礒本雄太、川島健太朗、井上花月

まるで本作のジャケットに写し出されている草木のように、Laura day romanceの創作は大きく風に揺られながら、たくましい成長を遂げている。フォーキーな演奏と架空の街を舞台にしたコンセプトで、2017年の結成以降に持たれていたギターポップバンドという印象から鮮やかにはみ出してみせたデビューアルバム『farewell your town』から1年7か月。バンドとしてのダイナミズムを打ち出した昨年のシングル3部作を経て、彼らはセカンドアルバム『roman candles|憧憬蝋燭』を完成させた。

生と死にまつわる詞に通底するトーンや、アコースティックギター主体で音数が厳選されたアンサンブル、ボーカリストの井上花月の多重コーラスを用いながら微細に変化していく声の表情と、本作はどこを取っても緻密でウェルメイド。じんわりとした情熱が持続していくインディーフォーク的な作風はビッグ・シーフやジュリアン・ベイカーの近作などとも通じるものがあるだろう。

また、一意的な感情や捉え方に集約されるのを周到に拒み、アルバムタイトルや曲名にまで多様な解釈を受け止める工夫が施された『roman candles|憧憬蝋燭』は、ラディカルで開放的なポップソング集と言える。表現者としての自覚もより強く感じさせるようになった本作について、メンバー4人とサポートメンバーのドラ内山に話を訊いた。

Laura day romance 『roman candles|憧憬蝋燭』 lforl(2022)

 

一つ前にやったことのカウンターを常にやりたい

――今回はサポートベースのドラ内山さんにもお越しいただきました。

鈴木迅(ギター)「今回の作品では内山さんにすごく密に関わっていただいたので、彼を除く4人だけでインタビューを受けるのもどうかと思って、来てもらいました」

ドラ内山(ベース)「ファーストアルバムのリリース前からライブのサポートはしていましたが、制作段階にも関わらせていただくようになったのは去年のシングル3曲からですね」

――その2021年に発表した3曲“fever”、“東京の夜”、“happyend”は、エモーショナルなギターロックサウンドだったので、アルバムもその路線になるのかと想像していたのですが、まるで違う方向の作品で予想を裏切られました。

鈴木「僕は、熱中して制作に向かうためには、一つ前にやったことのカウンターとなるものが必要なタイプなんです。だからファーストアルバムに対して去年のシングル3曲があって、今回はまたそこに対するカウンターという感覚。3つのシングルをよかったと感じてくれた人たちを、このバンドは別の方向でもいいと思ってもらうためにはどうしたらいいんだろうと考えて、今回はこの路線を選びました」

――前にやったものとは別の方向に行きたがるのは、鈴木さんの性格なんでしょうかね?

鈴木「そうですね。飽き性なのでそのときどきに熱中しているものは違うし、またマイブームが自分の創作にもガッツリ反映されるタイプです」

――では昨年のシングル3曲を制作していた時のマイブームはなんだったんですか?

鈴木「サニーデイ・サービスの『いいね!』(2020年)はよく聴いていました。キャリアの長いバンドがガッと青さと勢いのあるアルバムを作ったことがすごくかっこいいなと思ったんです。当時コロナの自粛期間に入って、内向きに音楽を作る人が多かったから、余計にレアに感じました。だからシングル3曲はそこに影響された部分があったと思います」

2021年のシングル“fever”。『roman candles|憧憬蝋燭』にはCD版にのみ収録

――制作の要である鈴木さんが、ガラッと方向性を変えていくことに対して他のみなさんはどのように受け止めているのでしょうか?

川島健太朗(ギター/ボーカル)「それはもう……ついていきますよ(笑)」

井上花月(ボーカル)「でもあんまり追いかけている感覚はなくって、メンバー間でこの曲いいよって話は普段からしているから、彼と近い音楽は聴いていて。一緒にハマっていくから、そんなに私の気分とかけ離れているなと思うことはないですね」

 

エモーションは内側でジワっと燃やすことでも表現できる

――なるほど。ではそのシングルから具体的にアルバムの制作に着手したのはいつごろでしたか?

鈴木「去年の8月くらい?」

井上「いや、もっと前だったと思う」

内山「スケジュールでは2021年7月28日からスタジオに入ってます」

――すごく正確な記録ですね(笑)。

鈴木「その前から“wake up call|待つ夜、巡る朝”、“魔法は魔女に|magic belongs to witches”、“little dancer|リトルダンサー”の3曲はすでにあって、作業を進めていたんですけど、それらはシングルと近しいカラーのアレンジでした。でもそのモードが自分のなかで終わってしまって。いったんゼロからまた作業を始めたのが、7月の末からです」

礒本雄太(ドラムス)「“wake up call|待つ夜、巡る朝”のアレンジが変わったときは本当にひっくり返った(笑)。たまたま自分が参加できない日に、突貫工事をやっていたようで、あらためて聴いたら知らない曲になっていたんですよ。練習していたフィルインがないし、曲の雰囲気も真逆。いままでやってこなかったことを、求められている印象を受けました」

井上「オルタナティブなギターロックのアレンジだったけど、シングルを出し終わったときには、もう迅くんが聴いている音楽と乖離がすごく広がっちゃっていて」

――どういうものに変わったんですか?

鈴木「“wake up call|待つ夜、巡る朝”も当初はエモーショナルなアレンジにしたいと思っていたはずが、自分の生活の温度感と合わなくなってきて、嘘っぽく思えてしまったんです。それとエモーションってバンドでドカーンと鳴らすだけではなくって、内側でジワっと燃やすことでも表現できるよなってことが、いくつかの作品を聴いていて思ったんですよね。だからその方向をバンドでやってみたくなりました」

『roman candles|憧憬蝋燭』収録曲“wake up call|待つ夜、巡る朝”

――具体的に何を聴いてそう思ったのか教えていただけます?

鈴木「えーと……クレイロの『Sling』(2021年)ですね。爆発はしてないんだけど、内側にめっちゃエモーションを感じさせるアルバムなんです。アンサンブルも緻密ですごい作品だった」

井上「静かな炎を感じるよね」

鈴木「とにかく衝撃的でした。だから前作はヴァンパイア・ウィークエンドの『Father Of The Bride』(2019年)とかをイメージしていましたけど、今回はこの温度感を参考にしてアレンジを練っていきました」

 

歌の登場人物がどう生と死を見つめているかを描いたポップソング

――前作は〈架空の街〉というコンセプトを設けていましたよね。今回はそれに当たるようなものは決めましたか?

鈴木「まず“fever”を発表したときに、僕たちはポップバンドと見られることが多くて。そこに対して否定したいということはないんですけど、ただただ楽しいポップソングと、実はそうじゃない部分が見えているポップソングには明確に違いがあると思っているんです。“fever”はちゃんと後者を形にすることができた」

――その違いとはなんだと考えていますか?

鈴木「いくつもあると思いますが、例えば“fever”を作ったときは、登場人物たちの視点を通じて、彼らが生きているからこそ見えている景色がちゃんと描けているかが、いいポップソングの歌詞であるラインだと思っていました。これは自粛期間で何もしていない時間が増えたことで、死生観について意識する機会が多くなったのも大きくて。だから今回のアルバムにあたってはキャラクターがどう生と死と関わっているかを、1曲ごとに描くことが一貫したテーマになりました」

――確かに今回は主観的な視点で、何かを見つめていたり、誰かを思っているような歌詞が多いですよね。もしかしたらその対象はすでにこの世のものではないかもしれないし、もしかしたら主人公側がすでに死んでいるかもしれない。でも明言はされてない不思議なトーンが通底している。

鈴木「そこは狙いたかったところです」

――このコンセプトは全員で共有して制作を進めたんですか?

鈴木「コンセプトは主に歌詞に当たる部分なので、詞を書く自分とかっちゃん(井上)の間では共有しました。自分が視点やイメージの大枠を設けて、かっちゃんによりパーソナルなものに落とし込んでもらうという作り方です。演奏はどちらかというと歌詞のキャラクターの生活音を担うので、バンド全体では共有しすぎないほうがいい気がしています」

――コンセプトに対して、シングル3曲は最後に配置されていて、“fever”と“東京の夜”はCDのみに入っていますよね。これらはアルバムのなかで、どのような位置づけとなりましたか?

鈴木「シングル3曲は別れや諦めみたいなワンシーンを切り取ったものなので、アルバムとはトーンが違うと思っていたんですが、配信だけだったので歌詞カードを読みながら聴きたいという感想をたくさん見かけて、入れることにしました」

川島「前作はシングルで出した“sad number”と“ランドリー”をかたくなに入れなかったから、少しは柔らかくなりましたね」

井上「本当はCDを2枚に分けて、こっちはシングルしか入れないようにしたいって言ってた(笑)」

鈴木「でも“happyend|幸せな結末”はアルバムの物語が連なったうえで、そのラストシーンとして聴くこともできるなと思って。だから“happyend|幸せな結末”までが本編という捉え方です。シングルで聴いたときとは少し表情が違って、シリアスに聴こえるんじゃないかな」

『roman candles|憧憬蝋燭』収録曲“happyend|幸せな結末”

 

一つの曲の解釈は一つでなくていい

――だから“happyend|幸せな結末”までのアルバム収録曲には、日本語と英語のタイトルが付いているんですね。このアイデアはどこから来たのでしょうか?

鈴木「海外の昔の映画や小説には、母国語のタイトルに対して、直訳ではない日本語タイトルがついていることが多くて、なんでこうなったんだろうと考えるんですけど、翻訳者が作品をピュアに解釈しようと挑んだ結果の表現だと思うとおもしろくって。作品について感じたことが一色だと自由度がないし、一つの曲を指すタイトルも一つでなくていい。より多様に感じてもらいたいという意味も込めてタイトルが二つずつあります」

井上「聴く人によって全然違うように捉えられる歌詞が今回多いので、そういう意味でも副題がついたことで、より入り口が広がるような気がします」

――〈英語|日本語〉だけではなく逆のパターンもありますね。

鈴木「左がメインタイトルで曲が出来たときのものです。それに対してもう一つの解釈を当てているのが右ですね」

礒本「作品に向けた曲が揃っていくのを見ていると、迅はアルバムというより一つの映画を作ろうとしているみたいだなと思っていました。またそのときすごく映画に凝っていたし」

――どんな映画を観ていたんですか?

鈴木「フランソワ・トリュフォーの『恋のエチュード』(71年)という映画があって。〈ロウソクの3部作〉と言われているなかの一つなんですが、あまり予兆を感じさせず、フッと人が死んでしまうストーリーで。灯っていた生命が消えてしまうことに関して、自分も興味があった時期だったし、アルバムのコンセプトにも影響したと思います。『roman candles|憧憬蝋燭』というタイトルもそこからつけました」

 

歌が自由に泳いでいる感じを出したかった

――また、これまでは川島さんのボーカルもこのバンドの大きな武器でしたが、今回は井上さんのみが歌っていることも、この作品の重要なポイントだと思ったのですが。

鈴木「アルバムの物語が一人称で進んでいるので、男女の声が出てくるとコンセプトとずれてしまう部分が出てくるから今回は振り切りました。川島の声はエモーショナルなので熱を帯び過ぎてしまうだろうなと。それとボーカルが2人だとどうしてもずれないように合わせることに配慮がいくんですけど、今回は歌が自由に泳いでいる感じを出したかったというのが理由ですね」

井上「私にとっては、前作に比べてキーが低くて、より自然体で歌える曲が多くなりました。静かで軽いけど情熱を感じられるというのが今回のテーマだったから、その表現はやりやすかったですね。相反する感情が出せたんじゃないかなと思います」

――確かに前作の“lookback&kick”や“rendez-vous”やみたいに力強く攻める曲は1曲もない。

井上「あとはほぼ全曲、コーラスをたくさん重ねているのが特徴ですね」

礒本「曲の緻密さとは裏腹に、すごく淡々と歌のトラックを重ねている作業は見ていておもしろかったですね」

川島「わんこそばみたいにどんどんレコーディングしてた(笑)」

鈴木「一色じゃない感情を細かいレベルでコントロールできるようになっていると思いました。基本的に囁くような歌い方という一貫したカラーがあるのに、ちゃんとグラデーションが描けているのが頼もしかった」

 

アイリッシュやブリティッシュフォークのイメージ

――それで言えば川島さんの役割もかなり変わったんじゃないでしょうか?

川島「そうですね。今回は特にデモまでがっつり迅が作ってきたものを、仕上げるという進め方だったので、迅のギターとのバランスを決めたり、音作りの部分に注力する携わり方でした。ファーストは全体的にカラッとしていてアメリカっぽいイメージがあったんですけど、今回は全体的にちょっと湿っていて、迅からはアイリッシュやブリティッシュフォークみたいなトラッドな感じというオーダーを受けることが多かった。なので12弦ギターを買って“魔法は魔女に|magic belongs to witches”とか“waltz|ワルツ”で導入したり、悩みながら組み立てていました」

内山「川島くんはマンドリンも“happyend|幸せな結末”のときに買って使っているし、迅くんは今回鍵盤も自分で弾いている。プレイヤーとしても各々新しいことをやっているし、全然休まないから、すごくストイックな人たちだなぁと思って見ていました」

――私は“魔法は魔女に|magic belongs to witches”が川島さんの不思議な12弦ギターや、展開も含めて年代不詳のポップソングという感じがして、特に魅かれました。

川島「この曲は特にデモの段階から無国籍感があるなと思っていました。特にあの二部目……?がいい味出ていますよね」

『roman candles|憧憬蝋燭』収録曲“魔法は魔女に|magic belongs to witches”

――後半からガラッと世界観が変わるのを、二部目と表現されているのがおもしろい(笑)。

井上「その二部目から私のコーラスもあえてすごく気持ち悪い響きにしたんですよ。あんなにトラックを重ねたのは初めてで、数十人分の私の声が入っています」

礒本「実は当初二部目はなくって、制作を進めていくうちに出来たパートです。ドラムのテンションや空気感としては完全に別の曲として扱っていますね。メインの歌の部分が終わったら、エンドロール的にまた別の何かが始まっていくイメージ。終わり方も全員示し合わせるんじゃなく、なんとなく消えていく寂しい感じにするのが難しかった」

――内山さんは今回初めてアルバムの制作に参加されて印象的だったことはありますか?

内山「迅くんとかっちゃんと3人で土台となるデモを作っている時間が今回長くて、もう一回青春しているような気分になりましたね。普段はヒップホップやR&B、あとはいわゆるロックバンド的なプロジェクトに参加することが多いんですけど、ここでは歌心をすごく大事にするし、僕の辞書にないこともたくさんありました」

鈴木「僕はDTMができないので、デモ作りはドラさんがすごく力を貸してくれました。時間も限られていたなかで、このタイミングで言ってしまうと、全部ひっくり返して大変なことになるなと思うこともこれまであったんですけど、相手がドラさんだったら〈いいか、言ったれ〉って思える(笑)。だから全部試せましたよ」

内山「大変だった……。サポートとは言え、すごく意見も求めてくれるし、自分もこの作品でレベルアップできたと思います」

 

次のLaura day romanceがめざすのは奥田民生?

――鈴木さんのなかではもうこのアルバムが完成したことで、すでに『roman candles|憧憬蝋燭』的な音楽をめざすモードは終わってるんですか?

鈴木「そうですね。もうこのアルバムの雰囲気ではないです。だから次はもっと風通しのいい、バンド感が出るような作品とかを作りたいと思っています。でも前作を出したときも同じようなことを言っていた気がする……。やりたいことは常に変わるし、いまはまだ次がどうなるかは言わないほうがいいですね」

――ちなみにいまのマイブームはなんですか?

鈴木「奥田民生さんがいますごく好きなんです。それまで自分の好きな作曲スタイルからは遠い人というイメージがあったんですけど、曲作りがとにかくうまいことに気づいてしまいました。メロディーもコードもシンプルで、歌詞も意味をわからせすぎない。でも確実に素晴らしいと思わせるあの絶妙な案配が、自分にもできたらいいなと思います。だからすごいカラッとした曲が出来るかもしれません」

礒本「でもその前に、今回の緻密に作った曲たちをライブでどうやるの……?というのを早く決めないといけないんですよ。いままでになく間を意識した作品なので、そこを効果的に表現しつつ、また少し解釈が変わった形でライブでは演奏できればと思っています」

 


RELEASE INFORMATION

Laura day romance 『roman candles|憧憬蝋燭』 lforl(2022)

リリース日:2022年3月16日(水)
品番:UXCL-273
価格:2,750円(税込)
配信リンク:https://orcd.co/lauradayromance

TRACKLIST
1. 花束を編む|making a bouquet
2. well well|ええと、うん
3. wake up call|待つ夜、巡る朝
4. winona rider|ウィノナライダー
5. ether|満ちる部屋
6. aching planning|傷ましいやり方
7. little dancer|リトルダンサー
8. 魔法は魔女に|magic belongs to witches
9. waltz|ワルツ
10. step alone|孤独の足並み
11. happyend|幸せな結末
12. fever(CD Only Albumbundle Track)
13. 東京の夜(CD Only Albumbundle Track)

 

LIVE INFORMATION
『roman candles|憧憬蝋燭』リリースワンマン企画
2022年5月13日(金)東京・渋谷 WWW
2022年5月21日(土)大阪・心斎橋 Live House ANIMA
2022年5月29日(日)名古屋・新栄 RAD SEVEN
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