人生という旅はどこから来てどこへ向かうのか――多様な価値観が乗り合わせた待望の初フル・アルバム『流星列車』は彼女をどんな未来へと導くのだろう?

人生は旅だな

 私物のポール・リード・スミスやカート・コバーンに憧れて入手したムスタングを携え、2020年にミニ・アルバム『KDHR』『POWER CHORD』を立て続けに発表してアーティスト活動をスタートさせた声優の〈くどはる〉こと工藤晴香。PassCodeのサウンド・プロデュースで知られる平地孝次を作/編曲に迎えたエレクトロニコア直系のサウンドと、芯の強さが窺える自作のポジティヴな歌詞、分厚いギターとシンセの音にも負けない鋭くも愛らしい歌声によって、我が道を突き進んできた彼女が、待望のファースト・フル・アルバム『流星列車』を完成させた。初のアルバム制作に際しては、自身が青春時代に愛聴していたグリーン・デイの名盤『American Idiot』(2004年)のように「どの楽曲も欠かすことのできないトータルで完成されたアルバム」を理想にしていたとのことで、本作はその通りコンセプチュアルな内容に仕上がっている。

工藤晴香 『流星列車』 CROWN GOLD(2022)

 「最初は、小説みたいに全編を通してひとつの物語にできればと考えていたんですけど、それが思いのほか難しくて。そこでもっとシンプルに、何かコンセプトやテーマを決めて作品にまとめようと思っていたときに、制作の最初の段階で“旅立ち”という曲が出来上がって〈これだ!〉と思って。そこからテーマは〈列車〉〈乗客〉〈人生〉〈旅〉に決めました」。

 普段から宇宙のことに思いを馳せるのが好きだと語る彼女。『流星列車』というタイトルには、そういった「手の届かないものや未知の世界に対する憧れ」、また「銀河鉄道の夜」や「銀河鉄道999」といった好きな作品に通じるロマンと切なさが象徴されていると同時に、さまざまな価値観を持った旅人が乗り合わせる場所となる作品の内容が示唆されている。

 「私は人生は旅だなと思うことがよくあって。いろんな人との出会いや別れもそうですし、帰る場所があるときもあれば、もう戻れない風景もある。そういったものを描きたい気持ちがあったなかで、“旅立ち”のデモ音源を聴いたときに、駅に誰かが立っている風景が見えたんです。それでその人を主人公に歌詞を書いてみたら、きっとこの人以外にも、いろんな人たちがそれぞれの想いを秘めて、旅を歩んでいるんだろうなと感じて。だから今回は楽曲ごとにいろんな登場人物の旅や人生を描いていきました」。

 

自分とは違う目線

 2021年にリリースされたシングルの表題曲“Under the Sun”と、昨年のライヴでも披露していた“Cry for the Moon” “Supernatural”という完成済みの楽曲に加え、工藤のオーダーをもとに平地が楽曲を新たに制作し、それに対して工藤がコンセプトにハマる歌詞を書くという工程で作られた今回のアルバム。「今までの作品は完全に私が主体の曲が多かったんですけど、今回は作詞家的というか外側からの目線で歌詞を書いているので、私とはまったく違う価値観の曲もあります」との言葉通り、これまでのように前向きで負けん気の強さが表に出た楽曲だけではない、多彩な表情を見せてくれる点が本作の聴きどころだ。ひときわヘヴィーなギターが疾走するリード曲“Cry for the Moon”では、自分にないものへの渇望をクールな歌唱と共に表現。〈この世界には「希望」があるはずだから〉というフレーズがいま聴くと余計に刺さる“HOPE”、ブルージーなギターと優しく包み込むような歌声の対比が印象的な“家路”といった、バラード調のミディアムも収録されている。そんななか、彼女が「自分からいちばん遠い」と断言するのが、別れの痛みや傷を歌った“Scar”だ。

 「私の場合、嫌だったり傷つくことがあっても、ここまで悲しく引きずらないし、その怒りや悔しさをガソリンに変えて進むタイプなんです。〈あの言葉、絶対に忘れない、許さないから〉みたいな(笑)。でも、その気持ちをストレートに歌詞にするのは違うと思うし、もっと美しく、悲しかった過去を抱きしめている人もいるはずと思って。逆にファンの方がこの曲を聴いて、〈くどはるにもこういうセンチメンタルな瞬間があるんだな〉と勘違いしてくれたら嬉しいです(笑)」。

 その一方で、いつもの彼女らしく快活に弾けた楽曲も多い。「この曲は勢いで歌詞を書いたんですけど、自分っぽさ全開ですね。やっぱり強気で進んでいくのが〈本当の私〉なんだなって」と語る、ダウン・チューニングのギターがゴリゴリと唸るファスト・チューン“Real me”。さらに“ROCK STAR”(『POWER CHORD』収録曲)の続編的なナンバー“ROCK STAR’s Brand new song”での、ロック・スター然とした威勢の良さで〈君は悪くない〉と歌う心意気も最高だ。

 「“ROCK STAR”は、好きなアーティストの音楽や言葉に救われたリスナーが、今度は自分がロック・スターになって誰かを救おうとする曲だったんですけど、この曲はその〈ロック・スターの新曲〉というテーマで書いていて。この歌詞を書いた当時、辛いことがすごく多くて、〈誰か私を褒めて!〉っていう気分だったんです(笑)。なので自分が誰かに言ってほしいことを書いたんですけど、たぶんファンの方はくどはるがそう言っていると捉えるので、二重の聴き方ができると思います」。

 

予想できないほうが楽しい

 また、工藤が平地に「PassCodeさんみたいに、楽曲の全ブロックが違うテイストの曲」とオーダーして生まれた、セクションごとにメロやアレンジが忙しく切り替わるミクスチャー・ロック“No scenario”も彼女らしい一曲。いろいろな映画の世界に飛び込むような歌詞に映画好きな一面が見て取れるだけでなく、あえて人生のシナリオを用意しない、彼女自身のライフスタイルがそこには投影されている。

 「私自身、モデルになったかと思いきや、声優を始めて、声優のお仕事の現場でたまたま(Poppin’Partyの)愛美さんと共演したのがきっかけで、(Roseliaの)ギタリストになって(笑)。いまはソロでアーティスト活動も行っていて、自分でも予想できないほうにどんどん進んでいるのを感じますし、逆に先がわからないほうが楽しいなとも感じていて。人によってはそれを〈運命〉と言うかもしれないですけど、私は人生って出会いや偶然によって成り立っていると思うんですよね。もし目的の場所に辿り着けなかったとしても、そこを始発駅にすればいいし、辿り着いた場所が自分の思っていたものと違っていたとしても、またトライすればいい。それでずっと続いているというのはありますね」。

 原点となる“旅立ち”から始まり、最後は大地をしっかり踏みしめて前へと進むようなナンバー“Tread this Earth”で締め括られる『流星列車』。その終着駅は、次の新しい旅の始発駅であり、つまり彼女のアーティスト活動の旅はまだ道半ばというわけだ。

 「ミニ・アルバムでデビューしてから、ずっと海を船で移動しているような感覚で……そこは列車じゃないんだって感じですけど(笑)、今回のアルバムでようやく大陸に着いた感じがしたんです。ここからまたいろんなジャンルを開拓しつつ、村から街、国へとどんどん広げていきたいです」。

関連盤を紹介。
左から、グリーン・デイの2004年作『American Idiot』(Reprise)、平地孝次が手掛けるPassCodeの2021年のシングル『Freely/FLAVOR OF BLUE』(ユニバーサル)、Roseliaの2021年作『劇場版 BanG Dream! Episode of Roselia Theme Songs Collection』(ブシロードミュージック)

 

ソロ・アーティスト、くどはるの歩み

 モデル活動を経て声優デビューし、「BanG Dream!」におけるRoseliaでの飛躍を受けて、2020年にソロ・アーティスト・デビューを果たした工藤晴香。もちろんキャラソンの範疇では多くの歌声を残してきたものの、全曲を作詞した初ミニ・アルバムの『KDHR』はPassCodeを手掛ける平地孝次とガッチリ組んだメタルコア~エレクトロニコア系の意匠によって、ソロ・アーティストとしての彼女自身のロック志向をストレートに示すことになった。

 およそ半年後の次作『POWER CHORD』では、リード曲の“KEEP THE FAITH”ではヒップホップ好きな一面も活かしてラップを披露、平地との共作で作曲にも挑んだ“Magic Love”など、自由に音楽性の振り幅を追求。定期的にワンマンを行った2021年にはシングル“Under the Sun”を発表し、そこに収められたナユタン星人とTeddyLoidによるリミックスに端を発し、今年1月には『KDHRemix』も発表している。いよわ、tofubeats、☆Taku Takahashiによるリミックスのほか、はるまきごはんのカヴァー“メルティランドナイトメア”も収録。それらで聴かせたポテンシャルも含め、彼女のソロ・アーティストとしての旅の行方には今後も注目だ。 *轟ひろみ

工藤晴香の作品。
左から、2020年のミニ・アルバム『KDHR』『POWER CHORD』、2021年のシングル“Under the Sun”、2022年のリミックス企画盤『KDHRemix』(すべてCROWN STONES)