人生という旅はどこから来てどこへ向かうのか――多様な価値観が乗り合わせた待望の初フル・アルバム『流星列車』は彼女をどんな未来へと導くのだろう?
人生は旅だな
私物のポール・リード・スミスやカート・コバーンに憧れて入手したムスタングを携え、2020年にミニ・アルバム『KDHR』『POWER CHORD』を立て続けに発表してアーティスト活動をスタートさせた声優の〈くどはる〉こと工藤晴香。PassCodeのサウンド・プロデュースで知られる平地孝次を作/編曲に迎えたエレクトロニコア直系のサウンドと、芯の強さが窺える自作のポジティヴな歌詞、分厚いギターとシンセの音にも負けない鋭くも愛らしい歌声によって、我が道を突き進んできた彼女が、待望のファースト・フル・アルバム『流星列車』を完成させた。初のアルバム制作に際しては、自身が青春時代に愛聴していたグリーン・デイの名盤『American Idiot』(2004年)のように「どの楽曲も欠かすことのできないトータルで完成されたアルバム」を理想にしていたとのことで、本作はその通りコンセプチュアルな内容に仕上がっている。
「最初は、小説みたいに全編を通してひとつの物語にできればと考えていたんですけど、それが思いのほか難しくて。そこでもっとシンプルに、何かコンセプトやテーマを決めて作品にまとめようと思っていたときに、制作の最初の段階で“旅立ち”という曲が出来上がって〈これだ!〉と思って。そこからテーマは〈列車〉〈乗客〉〈人生〉〈旅〉に決めました」。
普段から宇宙のことに思いを馳せるのが好きだと語る彼女。『流星列車』というタイトルには、そういった「手の届かないものや未知の世界に対する憧れ」、また「銀河鉄道の夜」や「銀河鉄道999」といった好きな作品に通じるロマンと切なさが象徴されていると同時に、さまざまな価値観を持った旅人が乗り合わせる場所となる作品の内容が示唆されている。
「私は人生は旅だなと思うことがよくあって。いろんな人との出会いや別れもそうですし、帰る場所があるときもあれば、もう戻れない風景もある。そういったものを描きたい気持ちがあったなかで、“旅立ち”のデモ音源を聴いたときに、駅に誰かが立っている風景が見えたんです。それでその人を主人公に歌詞を書いてみたら、きっとこの人以外にも、いろんな人たちがそれぞれの想いを秘めて、旅を歩んでいるんだろうなと感じて。だから今回は楽曲ごとにいろんな登場人物の旅や人生を描いていきました」。