ロックが頭でっかちになった時代の爆走ロックンロール、ヘラコプターズ『High Visibility』
――3枚目はヘラコプターズの『High Visibility』(2000年)です。

THE HELLACOPTERS 『High Visibility(生産限定盤)』 Polar/Universal/LED/Psychout/ユニバーサル(2000, 2018)
田中「HR/HM好きが90年代に道を見失いかけていた頃、北欧では相変わらずHR/HMが盛り上がっていたんですよね。メロディックデスメタルも勃興していましたが、僕にはシンプルでストレートな爆走ロックンロールがフィットしました。それこそ、代表はスウェーデンのバックヤード・ベイビーズとこのヘラコプターズですね。
もう、疾走感がたまらないんですよ! テクニックなんていらない! 僕がとにかく求めていたのは、シャウトして疾走するロックでした。グランジやミクスチャーが入り乱れて、ロックが変化していた時期に、〈いや、やっぱロックってこれっしょ!〉って道を示してくれたのがヘラコプターズなんです。シンプルで良質なロックンロール。本当にもう、この一言に尽きますね」
熊谷「90年代の終わり頃って、ロックバンドがみんな頭でっかちになっていたんですよね(笑)。我々ファンが音楽について語るときも、やたら難しいことばかり言っていた。それに疲れていたときにヘラコプターズを聴いて、〈おお!〉ってなりました。初期衝動を思い出させてくれたんですよね」

――2000年といえば、ロックンロール/ガレージロックリバイバルの時期ですね。
田中「日本では、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTやBLANKEY JET CITYが活躍していた時期も被っています。この後、ホワイト・ストライプスとかストロークスとかがロックンロールリバイバルに火をつけるんですけど、ヘラコプターズの疾走感は、彼らにはないんですよね。僕は、スレイヤーのようなHR/HMを聴いてきた世代だったので、とにかくスピード感が欲しくて」
荒金「僕はファースト(96年作『Supershitty To The Max!』)とセカンド(97年作 『Payin’ The Dues』)が大好きで、初めて聴いたときにすごく衝撃を受けたんです。98年の恵比寿GUILTYでの初来日公演も観に行きましたけど、めちゃめちゃかっこよかった!
ちなみに、彼らは今年14年ぶりにニューアルバム『Eyes Of Oblivion』を出したばかりなんですが、この内容がまた素晴らしくて。特に表題曲は男泣き哀愁ロックの決定打みたいな楽曲で、入門作としてもオススメしたいです」
熊谷「ヘラコプターズってパンクやメタルのファンには知られていましたが、普通のロックファンには知られていなかったんですよね」
田中「HR/HMに括られちゃっていましたからね」
熊谷「そう。ハイヴスがデビュー時に雑誌のインタビューで〈ストロークスに対抗心はありますか?〉と訊かれて、〈いや、俺たちのライバルはヘラコプターズだよ〉と答えていたんです。それを読んだ後輩が、〈ヘラコプターズって誰?〉って僕に訊きに来たことを覚えています」
メタリカ・ミーツ・ビートルズ、ギャラクティック・カウボーイズ『Space In Your Face』
――では、最後に荒金さんのおすすめを教えてください。
荒金「〈VOL.4〉のカタログを見た時にいちばん〈おっ!〉って驚いたのがギャラクティック・カウボーイズの『Space In Your Face』(93年)だったんです。

GALACTIC COWBOYS 『Space In Your Face(生産限定盤)』 Geffen/ユニバーサル(1993, 2022)
彼らはもちろんいまも活動しているんですけど、このアルバムが最高傑作だと思います。なので、〈よくぞこれを再発してくれた!〉と思って。
紹介文にもあるとおり、〈メタリカ・ミーツ・ビートルズ〉と言うべき音楽性で、ザクザクしたスラッシュメタルのギターリフと、ビートルズ愛にあふれた、びっくりするようなグッドメロディーが融合しているんです。1曲目の“Space In Your Face”から曲が良すぎて、ノックアウトされちゃいますね。
メタルファンは知っていると思うんですけど、普通のロックファンにはあまり知られてないと思うので、ぜひ買って聴いてほしいです」
田中「90年代って良いメタルバンドが多いのですが、埋もれちゃっていますよね」
――ロックシーンがオルタナの時代になってしまったからでしょうか。
荒金「そうですね。アイ・マザー・アースなんかも、めちゃめちゃ良い作品を出していましたよね」
熊谷「『Space In Your Face』は、友だちが聴いていたことを覚えています。でも、ジャケの感じでハードコア系だと勘違いしたんですよね。〈良いな〉と思いながらも、スルーしちゃっていました」
荒金「イケているかどうかと言ったら、ちょっと中途半端なジャケですからね(笑)」

田中「サウンドはアンスラックスに近いですね」
熊谷「たしかに。アンスラックスもパンクファンで好きな人が多いですし、ギャラクティック・カウボーイズもパンクやメロコア好きにアピールできていれば、もっと認知されていたかもしれません。それも、雑誌やメディアがジャンルで分かれていたせいだと思いますが」
荒金「そうですね。ギャラクティック・カウボーイズはメロディーがキャッチーなので、イナフ・ズナフのようなメロディアスなバンドが好きな人に刺さると思います。
ところで、今回のリイシューは、リリース当時のライナーノーツが封入されていますよね※。当時の空気が感じられるから、これはうれしい」
熊谷「そうそう。そういえば、ニルヴァーナの『Nevermind』(91年)のライナーって、リリース当時は『BURRN!』の方が書いていたんですよね」
荒金「平野和祥さんですね」
熊谷「メタルの文脈でニルヴァーナが紹介されていたこととか、いまじゃ考えられないので、当時の空気を知ることができるのはおもしろいですよね」
田中「グランジバンドとされていたサウンドガーデンも、HR/HM好きに聴かれていたバンドですよね」