タワーレコードが企画・選曲し、好評を博したコンピレーションアルバム『IRON FIRST - 80’s HR/HM Edition』(2021年)。同作に続く第2弾『DEFINITELY METAL - 80’s HR/HM EDITION』は、〈80年代のハードロック/ヘヴィメタルはこれを聴いておけば間違いない!〉という曲を集めた決定盤的内容だ。HR/HMの幅広いスタイルを網羅し、日本初CD化となるレア曲も収めた本作について、連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉が好評なジャズピアニストの西山瞳が綴る。 *Mikiki編集部

VARIOUS ARTISTS 『DEFINITELY METAL - 80’s HR/HM EDITION(タワーレコード限定)』 ユニバーサル(2022)

 

90年代メタラーにとって栄光の80年代メタルは眩しかった

タワレコ企画・選曲による80’s HR/HMコンピ第2弾『DEFINITELY METAL - 80’s HR/HM EDITION』が発売になりました。
80年代のメタルを集めた1作目『IRON FIRST』に続き、新たに18曲が収録され、これからメタルを聴く方にはウェルカムな入り口になると同時に、これまでメタルを聴いてきた方には輝かしい時代と再会し、当時の自分のライブラリからこぼれて落ちていたメタルとも新しく出会えるコンピレーションアルバムとなっています。

私は79年生まれ、90年代メタラーです。
80年代というメタル百花繚乱のパワフルな時期をリアルタイムで聴いておらず、私にとって80年代メタルは、背伸びして聴くものでした。
90年代の高校生当時、メタルを夢中で聴き、教室の隅で「BURRN!」誌など読む中で、〈現在のメタルは80年代が前提で出来上がっており、その時代体験を共有しているのが前提で話がされている〉ということは常々感じていました。MTVを見ても、バンドをしている友達を見ていても、世の中はメロコアからグランジやオルタナティブに流れていき、メタル栄光の時代は少し過去のものになっていた。
出遅れメタラーには80年代は輝かしくキラキラ眩しいもので、〈世の中の先頭で一番イケてる音楽をやっているオーラがする〉と、映っていたのです。
(実際に音もシンセでキラキラしていたのですが)

 

多種多様なバンドを取り上げメタルの横軸の広がりがわかるコンピ

さて、昨年タワレコ企画の80年代メタルコンピ1作目『IRON FIRST』が出て、〈IRON FIST〉なのに、なぜかモーターヘッドではなく、イングヴェイ・マルムスティーン“Rising Force”をオープナーに配置する蛮勇。なんでだよ! 嬉しいけど!と思ったら、よく見ると〈FIST〉ではなく〈FIRST〉、同じ空目をしたメタラーは多いはずです。
続編としてリリースされる今作には、モーターヘッド“Iron Fist”もばっちり入っており、さらに多種多様なバンドを取り上げ、メタルの横軸の広がりがわかる内容かと思います。

 

1. Anthrax “Indians”

まずは、スラッシュメタル四天王、アンスラックスの名曲からスタート。
アルバムの顔となる一曲として申し分なしの攻撃力とスピード。スラッシュメタル四天王の中でも最もストリート感のあるアンスラックスは、まさに先陣を切るのにふさわしく、スラッシュメタルというフィジカルを超えた運動性と、魂に強制的に火を付けるライブの爆上げ感を感じて欲しい。

 

2. Megadeth “Peace Sells”

スラッシュメタル四天王、メガデスは、聴く者を削るソリッドなサウンドを駆使しながら、内面の葛藤や鬱屈、社会への不満を爆発させ、〈しっかり考えた上でブチ切れる〉という他のスラッシュメタルにはないエネルギーを持った、唯一無二のバンド。
私のような90年代メタラーにとっては『破滅へのカウントダウン』(92年)が思い出深い一枚なのですが、この曲を収録した86年のアルバム『Peace Sells... But Who’s Buying?』は、後年の緻密な作品よりも展開が荒々しく、しかしリフのセンスは抜群に切れ味が鋭くまさにインテレクチュアル。80年代の開花の時期のエネルギーを感じます。

 

6. Warlock “Sign Of Satan”

ヘヴィメタル女性シンガーの草分け、ドロ・ペッシュ率いるパワーメタルバンド、ウォーロックのこの曲は、日本で初CD化。このコンピに入れたことが素晴らしい。今でこそ強力なガールズメタルバンドや女性プレイヤーは沢山いますが、初期は女性はほとんど見ることがない圧倒的男性社会でした。その中で誰よりも強いメタルスピリットでバンドを引っ張っていくエネルギーは、文句なしに格好良い。80年代から彼女の築いた功績は非常に大きなもので、コンピに入るべき一曲です。