シンディ・ローパーにとって最後のジャパンツアーがスタートした。80年代を代表する世界的ポップスターの彼女だが、ツアー活動からの引退を宣言すると同時にフェアウェルツアーの開催も発表。今回、長きにわたり日本と親密な関係を築いてきたシンディの最後の来日ツアーとあって、多くのファンが会場に駆けつけている。

そんな大盛況のジャパンツアーより、4月22日に行われた日本武道館公演の模様を綴った公式レポートが到着した。 *Mikiki編集部


 

シンディと日本をつなぐ深い絆

2024年10月にカナダのモントリオールからスタートしたシンディ・ローパーの〈Girls Just Want To Have Fun Tour〉は、12月までに北米各地を周り、今年2月から欧州ツアー、4月にオーストラリアを経てここ日本にやってきた。6年ぶり、単独公演としては15回目のジャパンツアーとして、初日4月19日のAsueアリーナ大阪を経て4月22日、〈聖地〉日本武道館に到達した。

19時12分。客電が落ちると、ステージ背景に設置された巨大なスクリーンに時代を彩った映像と画像が、ノスタルジックなメロディがマッシュアップされた煌びやかなサウンドに乗って次々と映し出されていく。全盛MTVが生んだ80年代最大のポップスター、飽くなき音楽探求を続ける非凡なミュージシャン、ジェンダー平等やLGBTQ+コミュニティに寄り添う提唱者として活動を続けるアーティスト。短いイントロに投影された生き様だけで会場が大歓声に包まれると、シンディのシルエットが浮かびあがり、ステージ前方から客席に向かってレインボーカラーの紙吹雪が放たれる。

気が付けばSEサウンドに同化する生演奏がベースラインを刻んでいる。一気になだれ込むオープニングは“She Bop”。すでに客席は総立ち。シンディとファンが作り上げる特別な夜がスタートした。1曲目を歌い終えたところで「コンバンワ、トーキョー!」。続けて「1986年、初来日公演の時に日本のみんなが“True Colors”を歌い返してくれたことが忘れられない。だから2011年の大震災の時も帰らず歌いたかったの。私の<True Colors>はもっと強いものだから……」と目を潤ませながら語ると場内は大きな拍手に包まれた。

1986年9月10日、アルバム『True Colors』のワールドツアーは日本武道館がスタートだった。シンディがのちに生涯忘れられない魔法の瞬間だったと語る当時の最新曲“True Colors”(全米1位は約2か月後)のアンコールでの合唱は、前作『She’s So Unusual』での来日が実現しなかったファンの渇望、シンディと一緒に歌いたいという純粋な気持ちが生んだ一体感だった。

そして、2011年3月11日、東日本大震災が発生した当日、シンディは〈Memphis Blues Japan Tour〉のために来日。彼女の乗った飛行機は地震閉鎖のため成田空港に降りられず、横田基地に緊急着陸した。多くの来日キャンセルが続くなか、シンディも同様に周囲から帰国するように勧められていたが、シンディは、3月15日の名古屋公演から予定通りコンサートを敢行。のちに彼女は自伝のなかで語っている。「日本のファンがあの日、私に歌ってくれた“True Colors”は力強かった。もし私がここで日本から立ち去ってしまったとしたら、ほんとのところ〈True Colors〉はいったい何を意味したというの? あのとき日本が私に心を開いてくれていたというのに? だから私が日本にとどまってパフォーマンスをすることで、元気を出してもらいたかった」。目には見えないシンディと日本の絆を物語るエピソードだ。

 

71歳とは思えない圧巻の歌唱力

『She's So Unusual』から目下最新アルバム『Detour』まで、バランスの良い選曲で彼女のキャリアを追体験できる集大成なステージとなっていたが、おどろくことに全15曲で約2時間。これだけじっくりと1曲1曲に意味を持たせながら披露する洋楽ライブは特筆に値する。日本のファンともっと深い部分でのコミュニケートを求め、すべてのMCが同時に通訳されて(シンディっぽい口調が楽しい)、楽曲への彼女の想いを伝えていく。

シンディのソロデビュー40周年を記念した映画「レット・ザ・カナリア・シング」は、決して豊かではない生い立ちから世界的なスターへの道のりを描いた長編ドキュメンタリーのなかに、彼女が貫くアーティストとしての誇りを浮き彫りにした。この日のステージは、まさに「レット・ザ・カナリア・シング」のリアルパフォーマンスといっても過言ではないだろう。

アーティストキャリアの原点と位置づけ、映画本編の象徴曲にもなっていた“I’m Gonna Be Strong”では、実年齢からは想像もできない、次元を遥かに超えた圧巻の歌唱力を誇示。非凡なボーカルパフォーマンスを最大限に引き出す一新したバンドとのコラボレートも躍動感に満ちている。

毎回違うアプローチを見せる“Money Changes Everything”は過去最高のバンドとの一体感を展開するなかで、シンディは〈Money〉をシャウトし続けた。演奏前に女性と女児の権利を推進するJust Want To Have Fundamentalへの募金を呼び掛けたことはこれまでと違うアプローチ。ピアニカ(フーター)の間奏に条件反射のように大きな拍手を贈る客席の様相は変わることのない嬉しい光景だ。