桑田佳祐 & Mr.Childrenのコラボレーションシングル“奇跡の地球(ほし)”がリリースされてから、30年が経った。1995年当時の新旧世代が衝突したこのチャリティソングは大きな話題になり、セールスはクワドラプルプラチナに達するなど商業的な成功も収めている。そんな90年代J-POPの記念碑的な曲について音楽評論家スージー鈴木に綴ってもらった。 *Mikiki編集部

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阪神・淡路大震災の6日後に発売された大ヒット曲

この曲から、ちょうど30年というから驚く。

1995年1月23日――阪神・淡路大震災からたった6日後に発売され、約170万枚売り上げた大ヒットシングル。私もリアルタイムで買っている。

短冊型8cm CDシングルの小さなジャケットには〈Act Against AIDS Special Single〉の文字。〈Act Against AIDS〉(通称〈AAA〉)、そして〈AIDS〉という言葉自体、今の若い世代には説明が必要かもしれない。

1980年代から1990年代にかけて世界的に猛威をふるったAIDS(後天性免疫不全症候群)に関する啓発を目的として、1993年から2020年まで活動していたプロジェクトが〈AAA〉で、桑田佳祐は、その中心的人物として、活発に活動していたのだ。

そして、そんなプロジェクトから生まれたのが、〈桑田佳祐 & Mr.Children〉名義による、この曲なのである。

すでに日本ロック界の王者として君臨していた38歳の桑田佳祐と、当時人気急沸騰、王者の位置を目がけて一気に詰めよってきたMr.Childrenの24歳、つまり桑田より14歳下の桜井和寿によるコラボレーションだ。

……などという、通り一遍の説明はさておくとして。〈格闘技〉などと言いながら、私は、この曲を聴くたびに、冒頭で、少しばかり楽しくなってしまうのである。テレビの物まね番組を思い出して。

というのは、この曲の歌い出しは桜井和寿で、その後すぐに桑田佳祐にリードボーカルが変わるのだが、冒頭の桜井の歌いっぷりが、まるで桑田佳祐そっくり。だから、物まね番組でよくある〈曲の途中でご本人登場!〉のようなシーンが浮かんで、正直、ちょっと笑ってしまうのである。

 

〈桑田唱法チルドレン〉の桜井和寿

さて、桜井和寿に関して、興味深い記事を2つ、ご紹介したい。まずは2016年11月7日の〈rockin’on.com〉の記事。 当時〈I ♥ CD shops!〉なるプロジェクトを立ち上げた桜井和寿のコメントが載っているのだが、最後にこんなフレーズがある。

――ちなみに僕のこの秋のおすすめは桑田佳祐さんのアルバム「孤独の太陽」です!!
是非お店に足を運んでみてくださいー!

ちなみに『孤独の太陽』は1994年のアルバムであり、2016年時点で、すでに22年前の〈旧盤〉だということに留意されたい。思い入れのほどが分かるというものだ。

次に、その5年前「別冊カドカワ 総力特集桑田佳祐」(2011年)に載っている、桜井和寿へのインタビュー記事。

――Q. 桑田さんの楽曲(ソロ曲でお願いいたします)で、一番好きなのは何ですか? また、その理由もお聞かせいただけますでしょうか。

A.「漫画ドリーム」/破裂する音の響き、 畳み掛ける言葉のスピード感で成立する曲で、才能も技術もすべてが揃ってる感じ。

“漫画ドリーム”は、『孤独の太陽』の1曲目。少しだけ、歌い出しだけでも聴いていただきたい。驚きますよ。

日本語の音韻をぐっちゃぐちゃにして、アコースティックギターのビートに貼り付かせたような実にラディカルな〈桑田唱法〉が堪能できる1曲である。ま、正直、ちょっとやり過ぎのきらいも……。

桑田佳祐をリスペクトしていたと聞く〈桑田チルドレン〉の桜井和寿だが、その本質は、20年以上前の旧盤・旧曲の〈桑田唱法〉を推し続ける、〈桑田唱法チルドレン〉だったことが、ここで判明する。