両極端の世界観

――いい流れをありがとうございます(笑)。そのニュー・シングル『麒麟♡タイム/Satie』はいずれも大森さんと古正寺さんの共作詞となりますが、具体的にはどういうプロセスで出来たものなんですか?

古正寺「え~、まず〈次はどういう曲がいいかな?〉ってLINEが大森さんから来て。私が〈大森さんのこういう感じの曲が好きで〉って返したりしてて、それで〈ピアノ曲いいね〉みたいな話になったんですね。私がエリック・サティが好きで、“グノシエンヌ”の1~3番をワンマンとかツアーの会場BGMにしてたんですけど、〈コショの好きな感じで書いてみるね。こういうのどうですか?〉って歌詞のない仮歌の入った曲だけがポンッて来て。めっちゃいいなと思って〈作詞しましょうか?〉って返したんですよ。そしたら、〈じゃあ、コショが書いて。それと別でもう1曲作るから、そっちは詞を先にちょうだい〉ってなって」

――先に出来たものが“Satie”になって。

古正寺「そうです。仮歌の状態で作詞したものを戻して、歌いやすいように変えてもらったりして出来たのが“Satie”で、“麒麟♡タイム”は詞だけを先に渡して。2曲で作り方が逆でしたね」

――では、その“麒麟♡タイム”から伺いますが、こちらは古正寺さんの詞に、大森さんが後から曲をつけたということですね。

古正寺「はい。でも、“麒麟♡タイム”は8行ぐらいのちょっとした文章、乱文を渡して、そこから大森さんがいろいろ構想を膨らませてくれて出来てるので、ほぼほぼ私は単語を渡したぐらいの感じでした」

――どのあたりの単語ですか?

古正寺「サビとかですかね。〈麒麟にのって会いに来たよ〉とか、〈お喋りなクマ〉のところとか。まさかこんな可愛い恋愛の曲になるとは思わなかったんですけど、2曲で明暗があるシングルにしようというコンセプトではありました」

――こちらは引越センターのCMを引用した冒頭の台詞から展開の目まぐるしい、ジャケのイメージそのままの華やかな曲ですが、歌ってみていかがでしたか?

ゆすら「私が〈ジャガイモ馬車で連れてって〉っていうフレーズを1人で歌う部分があるんですけど、全部〈ジャ〉の発音が〈ダ〉になってたっていう事件がありまして(笑)。レコーディング中は〈ジャガイモ〉って思って歌ってたんですけど、マスターの作業の時に聴いてみたら〈ダだったよ〉って言われて、その発音に苦戦してますね、はい」

古正寺「現在進行形ですか?」

ゆすら「現在進行形でございます(笑)」

茉世「確かに〈麒麟〉やる日はさ、本番前に〈ジャ、ジャ〉って練習してるもんね(笑)」

ゆすら「あと、凄く可愛い歌で、私が可愛くやるのが苦手なので、私なりの可愛いをがんばって研究してるところです。〈これで合ってるかな?〉って模索してます。苦手というか、笑夢と茉世が凄く可愛いのが上手なんですよ。なので、追いつかなきゃという気持ちです(笑)」

笑夢「歌いやすいし、歌ってて楽しいです」

茉世「私は初めて聴いた時に、〈あっ、好き!〉って思いました。私は可愛いけど毒がちょっと入ってるみたいなのが好きなので、〈ここ特にわかる!〉ってなったパートを歌わせてもらうことになって嬉しかったですし、靖子さんってやっぱり見抜いてくれてるのかな~みたいな気持ちになりました」

――具体的にはどこでしょう。

茉世「〈...比べないでよ〉とか〈心を見てるって...どこ見て言ってんの?〉という台詞パートとか、〈ここやりたいな〉って思った部分がきたので、いつもライヴでは素の自分でやれてるかなって思います。楽しいですね」

――今回のレコーディングはアルバムの時よりも緊張しないで臨めた感じでしたか?

茉世「私は今回のほうがレコーディングは緊張しましたね。アルバムの時はバタバタしてて緊張する暇もなく、〈やらなきゃ!〉みたいな感じだったんですけど、今回に関しては曲に向き合う時間もあったし、特にずっと高音域で歌う“Satie”はけっこうチャレンジな曲だなと思ってたので、ちゃんとやらなきゃと思って臨みましたね」

――アルバムのほうはもっと剥き出しで歌うような曲調が多くて、今回は演じるような側面も強い曲に思えます。

古正寺「そうですね。確かにアルバムは粗削りな初期の一枚って感じで、今回はどっちも極端に世界観がある曲なので」

――はい。もう一方が素晴らしいピアノ曲の“Satie”ですが、歌詞はどういうモチーフで書かれたんでしょう。

古正寺「何となくイメージをひとつ出すとしたらですけど……例えば隕石が落ちてきて、村がなくなったとするじゃないですか。みんな亡くなったけど、そこにいた子どもたちは魂がまだそこに存在し続けてる……そういうイメージで書きました」

笑夢「そうなんだ」

――こういう儚さや喪失感は古正寺さんが以前から書かれていた詩に通じる気もします。歌うのも難しそうですよね。

古正寺「やばいです。レコーディング当日まで歌割の決まってないパートがあったから満遍なく練習してはいたんですけど、それでもホントに難しすぎて。まだその感覚のまま〈うぅ!〉ってなりながらライヴもやってます(笑)。音数が少ないから、そのままを見られちゃう感じですよね」

――今回も振付けは雅雀り子(ZOC)さんが担当されていますね。

ゆすら「“麒麟♡タイム”は振付けもすっごい可愛くて、とにかく明るい感じで踊るようにしてるんですけど。“Satie”は微細なニュアンスというか、細かい動きで見せる部分が多い振付けになっていて。凄く難しいなと思いながら踊っています」

茉世「“麒麟♡タイム”でいうと、初めて曲を聴いた時に、私が〈こんな感じの動きかな?〉みたいに曲に合わせて勝手な振りで踊ってたら、り子ちゃんに付けていただいた振りに私のやった動きが偶然入ってて。〈あっ、あの凄いり子ちゃんとちょっとでも曲の解釈が一致できたのかな。嬉しい!〉って、勝手に喜んでました(笑)。“Satie”のほうは、歌が難しいのもあってシンプルな振付けにしていただいたというふうに聞いてますが、そのぶん中途半端なものを見せてしまうと逆に恥ずかしくなるなって思うので、そういう難しさを感じています」

笑夢「“麒麟♡タイム”は可愛くやるんですけど、踊りは“Satie”のほうが実は好きなんです。もちろんどっちの曲も感情入るんですけど、“Satie”はクソバカデカ感情を入れて気持ちを作るんですね。茉世も言ったんですけど、振りがシンプルで表現を見せる踊りだから、自分が表現したいことをできるようにがんばりたいです」

――アルバムとはまた違う幅の出た2曲になったと思います。

古正寺「はい。あと、ジャケやアーティスト写真は、アルバムでは大森さんの紹介してくださった方々にお願いしたんですけど、今回はデザイン、カメラマン、メイクさん、スタイリスト、それと衣装も全部、私が凄い好きな人を集めさせてもらって出来たので、そこにも注目してほしいです」