Photo:Stefania Curto

ビリー・バウアーらクール・ジャズ期に活躍した名人ギタリストたちの演奏を現代にアップデート!

 1曲目の“チュニジアの夜”が始まって数秒後、私は思わず〈なんじゃこれは!〉と叫んでしまった。パスクァーレ・グラッソが奏でるテーマが、ギター3本を同時に弾いているとしか思えないのだ。いったいどうやったらこんなことが可能なのだろう。

PASQUALE GRASSO 『Be-Bop!』 Masterworks/ソニー(2022)

 というわけで、今年34歳になるイタリア人ギタリスト、グラッソの新作『ビ・バップ!』を聴いている間、私は数分おきに〈うまいなあもう〉とか〈とんでもないやっちゃなあ〉とかブツブツ独り言をつぶやく不気味なおっさんと化してしまった。ソロでスタンダードを主に演奏した『ソロ・マスターピース』、アリ・ローランド(ベース)、キース・バッラ(ドラムス)とのトリオでエリントン・ナンバーをプレイした『パスクァーレ・プレイズ・デューク』に続くこの第三弾は、前作と同じメンバーのトリオによるビ・バップ作品集。チャーリー・パーカー、ディジー・ガレスピーの曲を中心に、モンクの“ルビー、マイ・ディア”、盟友サマラ・ジョイのヴォーカルをフィーチュアした“アイム・イン・ア・メス”、グラッソのオリジナル“ラメント・デラ・カンパーニャ”を収録したこのアルバムは、前2作よりはるかに鮮やかにグラッソのヴァーチュオーゾぶりを伝えている。

 さて、インタヴューでアート・テイタムやバド・パウエル、バリー・ハリスなどピニストからの影響を語り、このアルバムでのピアノ的な複数の音を同時に鳴らす演奏が随所に聴けるが、この『ビ・バップ!』での聴きどころは、ビ・バップ・フレーズのキモと言うべき、シングル・トーンでの8分音符だ。たとえばビリー・バウアーやチャック・ウェイン、ジミー・レイニーといった、クール・ジャズ期に活躍した名人ギタリストたちの演奏を現代にアップデートしたような感触を、私はこの作品のグラッソから感じる。最近あまり注目されない彼らの見事なプレイを、おそらくグラッソは心から敬愛しているはずだ。