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純正ジャズ・ギター、ここにあり!

 オールド・スクール。端的に言ってしまうなら、パスクァーレ・グラッソというギタリストはそういう存在だ。1988年生まれの彼はイタリア人で、2012年からニューヨークに拠点を置いて活動している。

 ジャズ全盛期の名匠を凌駕するようなテクニックが売り。彼のその名も 『Solo Ballads』(2021年)はまっさらなギター・ソロ作だが、それはジャズ・ギター技巧/滋養のあり方を決定的に伝えるジョー・パスの『バーチュオーゾ』(パブロ、1973年)もびっくりの出来を示していた。あっぱれ、とても1人で弾いているとは思えない! パット・メセニーをはじめ彼を絶賛する同業者も後をたたないが、それも当然のことと思う。

 現在ソニー/マスターワークスから彼はリーダー作を出しているが、近年グラッソは若いジャズ歌手の中もっとも成功を納めているサマラ・ジョイのレコーディング/ツアーに参加もしている。ジョイは現在どうしてこんなにオーセンティックなジャズ歌唱ができるのかと驚かせる才能を持ち〈ジャズ界の宝〉とも言うべき評価を受けている人物だが、ジャズ黄金期の本意を十全に抱える両者の結びつきには頷くしかない。

 そんなグラッソの新作『ファーヴァンシー』は気を衒わないトリオによる作品だ。自作も2つ入れているが、他はタッド・ダメロンやバド・パウエル、コールマン・ホーキンスらビ・バップ~ハード・バップ期のジャズ曲を取り上げ(もちろん、ポップ曲カヴァーはなし)、それを今様に改変することなく、旧い趣味で文句あっかと彼は悠々と指を滑らせる。結果、それらはジャズってこんなに成熟した洒脱と迸りを持つものなのかとくっきりと再確認させよう。とともに、〈変わらなくていいもの〉に献身する尊さも存分に差し出す。

PASQUALE GRASSO 『Fervency』 Masterworks/ソニー(2025)

 純正ジャズ・ギター、ここにあり。ニュー・スクール世代がいかにオールド・スクーラーたる矜持を出すのか。そして、その正統性は現在どう輝くか。グラッソの『ファーヴァンシー』はその確かなあり方を示している。