通算7作目のスタジオアルバム『Life Is Yours』が話題沸騰中、さらに2022年7月30日(土)に〈フジロック〉へ出演するフォールズといえば、現行UKロックシーンの頂点に君臨する巨大バンドだ。とはいえ、10年以上のキャリアがある彼らのバイオグラフィーを端的に伝える入門編、記念すべき来日公演の予習に最適なコンテンツは少ない。そこで、ここでは、現在イギリスに滞在中でバンドへのインタビューも行ったライターの佐藤優太が、フォールズのこれまでの歩みとライブでの演奏に期待したい楽曲を徹底解説する。 *Mikiki編集部


 

最新ライブの演奏曲を中心にフォールズ超入門

UKを代表するロックバンドの一つに成長したフォールズが、バンド史上最もポップでダンサブルな新作『Life Is Yours』を6月17日にリリース。来たる7月30日には〈フジロックフェスティバル ’22〉のメイン〈GREEN STAGE〉に立つ。

『Life Is Yours』収録曲“2001”ミュージックビデオ日本語字幕バージョン

振り返るとフォールズは、2010年のセカンドアルバム『Total Life Forever』のリリースをきっかけに、〈マーキュリー賞〉や〈NMEアワード〉などの数々の音楽賞のノミネートの常連となり、その作品とライブのクォリティーの高さへの定評を保ち続けてきた。そして、2019年には6作目のアルバム『Everything Not Saved Will Be Lost - Part 2』でバンド初の全英1位も獲得。また同年には英国最大の音楽賞である〈ブリット・アワード〉の最優秀グループ賞も受賞した。

この実績だけを並べても、彼らが2000年代にデビューしたインディ―バンドたちの中でも破格の成功を納めてきたことは疑いの余地がない。だが、特に『Everything Not Saved Will Be Lost - Part 2』の成功を背景にUKツアーや来日公演が凱旋的な舞台となるはずだった2020年に、COVID-19のパンデミックが全世界を襲ったというタイミングの悪さも災いして、熱心なファン以外の日本のリスナーには、まだその本領が十分に理解されていない部分もあるように思う。

そこで今回は、新作の発売と7月の来日ステージを記念して、フォールズのこれまでのキャリアをおさらいする。ただし、バンドの歴史については既に多くの記事もあるので、本稿では〈フォールズ超入門 2022年版〉と題して、〈最新ライブでの演奏曲〉(と〈新作アルバムとの関連〉)を中心ポイントに、新作も含めた全アルバムを振り返る形で、彼らの足取りを紹介できればと思う。

また、筆者は、今年5月にロンドンで『Life Is Yours』ツアーにも参加したので、そこでの最新情報も出来るだけ本文中に盛り込めればと思う。〈フジロック〉に行く方も、そうでない方も、ぜひ楽しんで読んでもらえれば幸いだ。

 

踊れるバンドの有望株としてデビューした『Antidotes』(2008年)

メンバーの一部が、レディオヘッドのメンバーも通っていたオックスフォードのアビンドン・スクールで出会ったことや、前身的なマスロックバンド(The Edmund Fitzgerald)の存在など、フォールズというバンドには、いくつかの魅力的な〈前史〉がある。

そんな彼らの名前が日本でも知られるようになったのは2007年、『Kitsuné Maison Compilation 4』に、バンドの初期の代表曲“Hummer”が収録されたことが大きなきっかけだった。当時〈ニュー・レイヴ〉というフレーズでラベリングされていたエレクトロハウスや、それと親和性の高い〈踊れる〉音楽を演奏するインディ―バンドたち。

その中でも、クラウトロックやアフロビートの影響を昇華した音楽を奏でるシーンの有望株として、フォールズはアルバムデビューの前から注目を集めていた。『Antidotes』が、デビューアルバムにして、全英3位というチャートの結果を生んだことも、当時の注目度の高さを物語っている。

FOALS 『Antidotes』 Transgressive(2008)

また、いま振り返った時に興味深いのは、ダンサブルな新作『Life Is Yours』が、その身体性という意味で『Antidotes』に、原点回帰したように思える部分があるということだ。端的に言えば、『Antidotes』はフォールズの過去作の中でも最も〈踊れる〉アルバムなのだ(そして、おそらくはそのことも関係して、『Antidotes』は新作の発売日と同じ6月17日に、実に14年ぶりのLP再発も行われた)。

『Antidotes』のプロデューサーは、当時TVオン・ザ・レディオの一員として自らのアルバムを手掛けて、その評価の絶頂期にあったデイヴィッド・シーテック。またNYのアフロビートバンド、アンティバラスのメンバーも管楽器の演奏に参加している。

Cassius”や“Balloons”など、ポストパンク感溢れる名曲も多い本作だが、今年のツアーで主に演奏されているのは、“Olympic Airways”と“Two Steps, Twice”の2曲。前者は、ブリッジでの観客との掛け合いがライブのお約束になっており、観客とのインタラクションを大事にする彼らのステージに欠かせない1曲。一方、後者は、アンコールの最後に演奏することがお決まりの定番曲。バンドと一緒にライブを楽しむ際には、ぜひ押さえておきたい2曲だ。

超入門オススメトラック
“Olympic Airways”