天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の楽曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。この一週間の最大のニュースは、先週土曜日、11月5日に起こった悲劇です。トラヴィス・スコットが米ヒューストンのNRG・パークで主催した〈アストロワールド・フェスティバル〉にて、14~27歳の8人が亡くなりました。音楽に限らず、海外のニュースメディアはこの話題一色ですね」

田中亮太中村明美さんのレポートによると、フェスには5万人もの観客が参加していて、トラヴィスがステージに登場する直前のカウントダウンが始まった頃に観客がステージ前に殺到、将棋倒しが起こったとのことでした。現在17人が入院していて、そのうち11人が心停止状態。さらに、300人以上が負傷したとのことです。予断を許さない状況ですね」

天野「〈FUJI ROCK〉や〈SUMMER SONIC〉でメインステージの最前まで行ったことがあるのでわかるのですが、フェスのステージ前って本当に危ないんですよね……。今回の事件の様子は容易に想像できるので、ぞっとします。会場では事件発生前から混乱が起こっていたようで、さらに医療スタッフに処置についての知識がなかったこと、救護用の道具がなかったこと、事件の発生後にライブを継続したことなど、さまざまな問題点が指摘されています。事件発生直後には、〈ライブをやめろ!〉というコールが観客から起こっていました

田中「2010年の〈ラブパレード〉など、フェスでの悲劇はこれまでに何度も起こっているので、世界各地のフェスが防止策に力を入れてほしいところ。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」

★TOWER RECORDS MUSICのプレイリストはこちら

 

Foals “Wake Me Up”
Song Of The Week

天野「〈SOTW〉は、フォールズの2年ぶりの新曲“Wake Me Up”です。先週のカサビアン“ALYGATYR”に続いて、UKロックの中堅アクトの曲を2週連続で〈SOTW〉に選びました。今週は、ベスト盤『Hits To The Head』のリリースを発表したフランツ・フェルディナンドの新曲“Billy Goodbye”も候補に挙げていたんですよね。ニューカマーのみならず、ベテランもいきいきしているのを見ると、いまのイギリスの音楽シーンは元気だなって感じます」

田中「うれしいことです。なかでも、この“Wake Me Up”はフォールズ流のディスコとでも言うべきグルーヴィーでパワフルなダンスナンバーで、アガりましたよ。9月にキーボーディストのエドウィン・コングリーヴ(Edwin Congreave)がバンドから脱退し、どうなることかと心配していたのですが、“Wake Me Up”はギター × ベース × ドラムによるシンプルで有機的なアンサンブルを改めて追求したことで見事なブレイクスルーを果たした曲、という印象です」

天野「エドウィンがいなくなったとはいえ、シンセサイザーのシーケンスは、この曲でも効果的に使われていますね。でも、たしかにリズム&グルーヴがメインの曲です。そこにスペーシ―な浮遊感が付与されていて、中期のトーキング・ヘッズ的な感じがちょっとあります。アタック感の強い音作りは迫力があって、これはリスナーを否応なしにダンスフロアへ向かわせるナンバー!」

田中「実際、フロントマンのヤニス・フィリッパキス(Yannis Philippakis)は、この曲を収録した来年リリース予定のアルバムを〈光と喜びと空間を込めたダンスレコード〉と表現しています。彼らをダンスに向かわせた背景には、やはりコロナ禍で過ごした1年半が関係しているようです。この曲には〈いまとはちがう別の場所での目覚め〉を宣言したいという思いが込められているんでしょうね。ダンスの季節は、きっとすぐそこに!」

 

Ladipoe feat. Fireboy DML “Running”

天野「2曲目は、ラディポーがファイアボーイ・DMLをフィーチャーした“Running”です」

田中「ラディポーは〈PSN〉に初登場ですね。ラディポー・エソ(Ladipo Eso)ことラディポーはナイジェリアのラゴス出身のラッパーで、ノースカロライナ大学で学び、ナイジェリアのレーベルであるマーヴィン(Marvin)と契約、2019年にデビューミックステープ『T.A.P. (Talk About Poe)』をリリースしました。そして、今年5月にリリースした、ブジュをフィーチャーしたシングル“Feeling”がヒットし、一躍注目を集めたんです。この“Running”は、先週11月4日にリリースされたばかりのEP『Providence』からのシングルですね」

天野「『Providence』には、アフロポップ/アフロビーツシーンで注目を集めている若手たちが参加しています。レマ、アマーレイ、そして“Running”でフィーチャーされたファイアボーイ・DMLはまさにその筆頭ですね。アフロポップ/アフロビーツ/アフリカンヒップホップの勢いを象徴する作品だと思います」

田中「同じナイジェリアのシンガー、ファイアボーイ・DMLとの“Running”は、ファイアボーイが伸びやかな歌声で歌うコーラス(サビ)が印象的ですね。彼の歌に導かれるようにして、ラディポーは堅実なライミングを聴かせます。ファイアボーイのレゲエっぽいバースも心地よいですね」

天野「ナイジェリアのプロデューサー、アンドレ・ヴァイブズ(Andre Vibez)が手がけたビートはアフロビーツ色やダンスホール色が抑えめで、柔らかくて隙間のある空間性やムードがいいですよね。ファイアボーイの温かい声にぴったりです。この曲で興味を持った方は、ぜひ今後もラディポーに注目してください」