コラム

「手塚治虫 ママー探偵物語」とんでもない本が刊行された。10歳の頃から描いていた秘蔵作品集が90年を経て奇跡の発掘

手塚治虫の才能の発芽を知る究極の秘蔵作品集!

手塚治虫 『手塚治虫 ママー探偵物語』 888ブックス(2022)

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 とんでもない本が刊行された。これまで手塚治虫作品のなかでヒョウタンツギといった唐突に流れを無視して登場する謎キャラのなかにママーという生物がいたのだが、そのママーたちが大活躍する中短編をまとめた秘蔵作品集である。これは手塚治虫が10歳の頃から弟妹と共に描いた習作で、その存在は手塚治虫のエッセイなどで知られてはいたものの誰も現物を読んだものはいなかった。それが今回90年を経て奇跡のように発掘されたのだ。鉛筆や色鉛筆で描かれたこれらの作品は、幼少期の落書きかと思ったらこれがとんでもない。最初こそ幼い感じではあるものの映像的コマ運びは既にこの頃から始まっていたのかと唸ってしまった。その絵の完成度は作品ごとに上がっていて、更にあの馴染みのある手塚治虫の手書き文字に仕上がっていくのが楽しい。手塚治虫はこれらを一冊の漫画本を編纂するように描いていて、その編集のセンスにも感心してしまう。最も驚いたのはその一冊分が300枚を超えるものもあって、奥付けを見るとなんとそれをたった一か月で描いていることがわかる。驚異的としか思えないが、あの膨大な執筆量の凄さはこんなところから始まっていたとは、まさにこれこそが手塚漫画のルーツなのだと思った。

©TEZUKA PRODUCTIONS

 ブックデザインは888ブックスの既刊「手塚治虫アーリーワークス」「手塚治虫コミックストリップス」を手がけた大の手塚ファンである祖父江慎氏で、とにかく原本の形を再現したいと鉛筆の質感を残しつつ、滲みや汚れで判別の難しい部分も極力目立たなくしたりと徹底したこだわりで復元している。限定800部で24200円というスペシャルな本だが、これはもうただの書籍ではなくて、手塚の習作を漫画史に残る価値のあるものとして後世に残したいと関わったスタッフたちの一大プロジェクトの結晶なのだ。その結晶を手に出来る我々は幸せというほかはない。

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