手塚治虫「ミッシング・ピーシズ」第3弾は、満を持しての大作登場!
手塚治虫が雑誌連載されたマンガを単行本にするとき、全面的に手を入れたことはよく知られています。ファンとしては、ぜひとも雑誌連載のオリジナル版と、単行本の完成版とを比較して見たいと思います。その熱望に応えて、手塚マンガ研究に関していま日本一と言える編集者・濱田髙志が、雑誌連載版と単行本版を比較できる「ミッシング・ピーシズ」シリーズを創始しました。これまで「ブラック・ジャック」と「三つ目がとおる」が刊行され大好評で、かなり高価ですが、この種の豪華出版物として異例の売れゆきを記録しています。

今回の第3弾は、「火の鳥 ミッシング・ピーシズ 《望郷編》」です。これが、前2作をはるかに凌ぐ驚異的な大作。1976年から雑誌「マンガ少年」で連載されたオリジナル版と、1986年に最後に単行本化された完成版とを完全収録する、総計1,000ページ超の2巻本で、輝くオブジェのような美麗なボックス入りです。そのうえ、これまで放射能の扱いが差別的だとして本にならなかった、手塚主宰の伝説的なマンガ誌「COM」連載のもう一つの「火の鳥《望郷編》」と、その関連作である「火の鳥《羽衣編》」、さらには、「火の鳥」という連作の根源を明かす「火の鳥《休憩》」まで異なる2バージョンで収められています。また、1978年に初単行本化された際の改稿まで明快に分かる資料つきです。
とはいえ、本書の最大の驚きは、画面のたとえようもない美しさです。ほとんどすべてのページが現存する生原稿による精細な復刻で、とくに雑誌連載オリジナル版の画面がこんなに大きく鮮やかに目の前で見られるとは、本を開いた瞬間から、至福に襲われます。描線の繊細なニュアンス、カラーページの色使いの鮮烈さ! そこには、まさにマンガの天才が刻印されています。
もちろん物語も、「火の鳥」諸編のなかでも屈指の面白さです。手塚版旧約聖書の「創世記」というべきスケールの大きさで、一つの星の盛衰を描きだします。生命の根源が近親相姦から始まるという大胆な発想にも仰天します。ともかく、必読、必携のボックスです。