単行本未収録作品を連載時のカラー版で収録したファン待望の作品集、知られざるエピソード満載!

 幼い頃に初めて読んだ雑誌が学年誌や児童向けの雑誌であったという方は多いでしょう。「たのしい幼稚園」、「小学一年生」から「小学六年生」までの各学年誌、「テレビマガジン」や学研の「科学」と「学習」など。漫画の原体験もここで、があったかと。本書では主に「学年誌」の連載を中心に単行本未収録であった作品をセレクト。カラー収録がかなわずモノクロにトレースして単行本化された作品を発表当時のカラー版オリジナル原稿で収録という贅沢な作品集となっています。

手塚治虫 『手塚治虫ディスカバリー・コレクション』 玄光社(2025)

 特筆したいのが冒頭に収録の『ぼうけん(冒険)ルビ』。宇宙を舞台に手塚治虫そっくりなキャラクターも登場し、まるでリアルな手塚治虫一家がキャラとなって躍動しているようで、映画のように大胆な構図と勢いある描線がたまらない名作と言えます。『海のトリトン』は1972年のアニメ放送時に「たのしい幼稚園」掲載の全5回のうち原稿が存在しない3回分を雑誌掲載版から復刻して収録。アニメ版と比較して表情が少し大人っぽいトリトン。アメコミ・テイストを感じる作品に。『ワンサくん』は虫プロ発行の「月刊てづかマガジンれお」の現存する原稿からの収録。このカラーが強烈。70年代の公害問題を導入部で展開し時代背景が感じられ、廃水で汚染された川べりで拾われるワンサくんの姿はぜひ読んでみて欲しい。個人的にはワンサくんがキャラクターとなっていた三和銀行(現:三菱UFJ銀行)のユーザーだったので、懐かしさも倍増。劇団カッパ発行「カッパしんぶん」掲載の「カンパチ」、「ユニコ」(小学一年生1983年版)、「鉄腕アトム」(小学二年生第1回)、「アトムキャット」(ニコニココミック)などを収録しています。

  後半は「単行本未収録 拾遺作品集」として近年発掘された未発表原稿や単行本ではカットされたカラーページを収録。1946年のポスター原画、1982年のブリジストン自転車カレンダーの未発表原画、「流星王子」の単行本未収録回の初収録、さらに貴重な蔵出しが絵物語「びいこちゃん」の下書き! 若き手塚が描いた絵物語の最初期作品の資料として彩色を施した原画と左右比較して読み比べることができる形で収録されています。

 最後に「アニマ」(1978年4月号)より手塚治虫による「かわいらしさをどう表現するか」という文章を掲載。描いた動物に魂を込める創作の秘密、ディズニーからの影響、この巻末収録にも大いに感銘を受けました。生涯で15万枚もの漫画原稿を描いたという手塚治虫の単行本未収録作品を中心に編まれた本作。学年誌を舞台に子供たちへ伝えたいこと、漫画表現で出来ることへ挑戦し続けていたことをあらためて思い知らされた作品集と感じています。