聴いてくれた人をハッピーにする、何かしらのエモーションを与える『Midnight Sun』

――では、本題のアルバム『Midnight Sun』についてお伺いさせてください。今回はどんなプロデューサーが参加しているのでしょうか?

「KOSENさんもレナートさんも参加していますし、Rounoさんという以前“Ambiguous”のリミックスをしてくれたプロデューサーの方と作った曲も入っています。それと、“Green Eyed Monster”は、トラックメイカーでトランペッターのKibunyaさんにサウンドプロデュースしてもらいました。なので、トータルで4人のプロデューサーに参加してもらっています」

『Midnight Sun』ティーザー動画

――特に先行シングルとして発表されたRounoさんとの“Beau”“Sparkling Lemonade”は、新しい扉を開いたかのようなフレッシュでポップなサウンドですよね。驚きました。

「すっごく明るくて、〈夏!〉って感じの曲になりましたね(笑)」

――アルバムのコンセプトやストーリーは事前に考えていましたか?

「聴いてくれた人をハッピーにする曲や何かしらのエモーションを与える曲を作りたいとずっと考えていたんです。たとえば、“Sparkling Lemonade”はポップで〈夏!〉〈ハッピーでいこう!〉という気持ちがスプラッシュしている感じ(笑)。他にも、いろいろなエモーションがこのアルバムには入っていますね」

――前作『Rocket Science』は〈これから冒険に出よう!〉という希望に満ちあふれた作品でしたが、本作ではKentaさんが迷いや悩みも率直に表現していると感じたんです。

「やっぱり、パンデミックがあったから書けた曲もあるんです。なので、“Green Eyed Monster”のような内省的でダークな曲もあります。“New Beginning”のように〈ここまで落ちたら、あとは上に行くしかない!〉という思いを込めた曲もありますし」

――アルバムタイトルからは、〈暗闇の中の希望の光〉というイメージが浮かんだんですよね。どんな意味で付けましたか?

「〈Midnight Sun〉は、〈真夜中だけどすごく明るく光っている太陽〉という意味なんです。北極や南極では太陽の動き方がちがうので、暗闇が何十日も続いたあとに太陽が照りつづける日が来るんですね。暗闇が続いたあとに昇ってくる太陽が〈Midnight Sun〉です。なので、暗闇の中に太陽が出ているのではなくて、すべてが太陽に包まれている、すごく明るいイメージですね」

――なるほど。イントロとして置かれているタイトル曲は荘厳なムードで、圧倒的で見事な幕開けだと思いました。

「あれはほぼ99パーセント、僕の声を重ねた曲ですね。アルバムタイトルを思いついた日に〈これはこういうメロディーだな〉と思って、すぐに作りました。ホーリーな感じや太陽のイメージ、ちょっと非日常的な現象を想像して……そういうことって、すごくパワーを感じるじゃないですか」

――Kentaさんのルーツであるゴスペル的なメロディーだと思いました。

「そうですね。ハーモニーの作り方とか、その影響が大きいかもしれません」

――エフェクトも若干入っていますね。

「レナートさんがアイデアを出してくれました。実は他に音を入れるとか、いろいろとトライしたんですけど、最終的には元のアカペラ的な、声をメインにしたところに落ち着きましたね」

 

〈試練の場所〉を歌った“New Beginning”

――それに続く2曲目の“New Beginning”は、現在のKentaさんの思いをストレートに表現した曲だと思いました。

「18歳の頃は雑誌を読んで〈これからこんなことをしよう!〉といろいろな想像を膨らませていたのに、20歳になってすぐにパンデミックになっちゃって、アメリカにいられなくなって……という、自分の気持ちをそのまま歌っている部分はありますね(笑)。

歌詞にある〈holy ground(神聖な場所)〉は、僕の好きな言葉なんです。この曲では、何も思い通りにいかない、自分で何もコントロールできない、どん底のような場所をあえて〈holy ground〉と呼んでいて。〈どん底に落ちたからこそ新しいことを学べる〉〈こんなに低いところまで来たんだから、あとは上に行くしかない〉と考え方を転換して、〈自分を成長させてくれる試練の場所〉として〈holy ground〉を歌っているんですね。暗い面も前向きに捉えて未来への希望を持つ、という歌詞になっています」

 

甘酸っぱい恋を描いた夏ソング“Sparkling Lemonade”

――シングルとして発表された3曲目の“Sparkling Lemonade”は、そこからいきなり突き抜けるような、弾けるようにポップで楽しい曲ですね。アルバムの構成として、切り替えが見事です。

「突き抜けてますよね(笑)。“New Beginning”で〈あっ、やっと太陽が見えてきた!〉と思ったら、パーッと晴れて〈夏だ!〉みたいな(笑)。そういうトランジションを感じられるので、この曲順は僕もすごく好きです。

元々、アルバムを夏に出すことは決めていたので、先行シングルとして夏っぽい曲を書こうと考えていたんです。それで〈Kentaにとっての夏って、どういうイメージ?〉と制作チームのみんなと話しているうちに、〈う~ん。『ビーチ』のことを歌うのは、ちょっとちがうかも。もっとユニークなテーマがいいね〉という話になって。それで、〈『Sparkling Lemonade』はどう?〉と提案したんです。

実は、LAにStereoscope Coffeeってコーヒーショップがあって、僕、そこのレモネードが大好きなんですよ。時々、Instagramに写真を載せたりもしています。“Sparkling Lemonade”は、そんな発想から生まれた曲なんです。僕の頭の中では、Stereoscopeの美味しいレモネードを飲んで暑い日々を過ごす、みたいなイメージだったんですね」

――軽快で爽やかなサウンドには、アイデアや遊び心が詰まっています。グラスのなかで氷がカラカラと転がる音が印象的でした。

「あの氷の音はRounoさんのアイデア、センスです。この曲は、そもそものスタートからRounoさんと一緒に作った曲なんですよね。僕がギターを弾きながら〈こういうコード、どう?〉と提案したり、“Lemonade”をテーマに詞を書いたりしながら一緒に作っていきました。出来上がった曲のアレンジは、Rounoさんにお任せして。

“Beau”もそうですけど、Rounoさんと一緒に作った曲はどれも明るくてポップで、夏に合う音に仕上がりましたね。Rounoさん、夏に合う曲を作るのがすごく上手いんです(笑)」

――〈You and I〉という印象的なフレーズから始まりますし、歌詞はラブストーリーですよね。

「ただこの曲では、〈sour and sweet〉というように、対照的な2つのものを歌っているんです。愛し合う2人にも、〈sour〉なときと〈sweet〉なときがある。でも、その2つが合わさってこそ夏に欠かせない美味しいレモネードが出来るんだよね、という。そういう、ちょっと甘酸っぱい恋を描きたかったんです」

――人生や恋愛など、さまざまな物事の二面性は、最近のKentaさんの曲や表現に通底するテーマだと思うんです。『Rocket Science』以降に次々と発表された曲を通して、Kentaさんの内面の成長や人生観の変化を感じていました。

「たしかに“Stay with me”のようなラブソングにも、そういう側面がありました。恋愛関係って常に楽しいわけじゃなくて、喧嘩をする時もありますよね。だけど、〈諦めないで一緒にいようよ〉と歌う曲を最近は書くようになりました。

『Midinight Sun』には、そういう表現がいろいろな曲に表れていると思います。『Rocket Science』からの成長が表れた曲が、ここにはあるのかもしれませんね」