2022年3月24日に東京・渋谷のVeats Shibuyaで開催されたDedachiKentaの〈Tokyo first one man live “Transit Jam”〉。タイトルのとおりに満を持して開催された東京での初のワンマンライブにして、弾き語りとバンドメンバーとの共演の二部構成で魅せた特別な公演だった。新曲“Fire and Gold”でEPICレコードジャパンからメジャーデビューすること、〈Kenta Dedachi〉への改名など、ビッグニュースの発表もされたこのライブの模様をレポートする。 *Mikiki編集部


 

「みなさまにご案内申し上げます。この飛行機は、只今から30分後に……」。日本語をはじめ、英語やフランス語など様々な言語の機内アナウンスが聞こえる。DedachiKentaの東京での初のワンマンライブ〈Transit Jam〉の会場、Veats Shibuyaでは、多くのファンが今夜の主役の登場を待っていた。しかし、その場で聞こえてくるのが音楽ではなく機内アナウンスだというのがユニークで、ステージ上には旅行用のトランクがいくつか置かれてもいる。この日のライブを特別にする演出の数々は、開演前からオーディエンスを〈Transit Jam〉の旅へと誘っていた。

 

フロアが暗転し、上手からすっと現れたDedachiKentaは、アコースティックギターを手に弦を爪弾きはじめる。ギターの出音を確かめたDedachiKentaは、まるで〈ああ、良い音〉と言わんばかりに微笑んだ。まずは2019年のファーストアルバム『Rocket Science』から、“I’ll be fine”。穏やかなバース(Aメロ)から、コーラス(サビ)でふわっと広がっていく軽やかな展開は、まるで飛行機の離着陸のよう。

“I’ll be fine”を歌い終えて拍手に包まれる中、「みなさんこんばんは、DedachiKentaです! うわ〜、たくさんいる! 元気だった? How are you?」と喜びの声を上げるDedachiKenta。ファンへの感謝、そしてひさしぶりのライブへの緊張を明かしながら、弾き語りによる一部とバンドメンバーを迎えた二部で構成される今回の〈フライト〉について説明すると、「一部はYouTubeの〈Kenta’s Journal〉のように進めていきます。楽しんでいきましょう!」と親密な空気を作り上げる。

続く“20”については、19歳の頃に初めてアメリカのプロデューサーたちとコライト(共作)した際のエピソードを語る。BTSの“HOME”の作曲で知られるクリスタ・ヤングス(Krysta Youngs)、そしてブリトニー・スピアーズから日本の安室奈美恵までを手掛けるアダム・キャピット(Adam Kapit)という世界的なプロデューサー2人ともに、 LAのダウンタウンを眼下にハリウッドサインを望むアダムのプライベートスタジオでおこなった共同作業は非常にスピーディーで、刺激にあふれたものだった――。そんな導入から、“20”がスタート。6連符で駆け上がるブリッジ(Bメロ)を経て、ギターをミュートして刻まれるリズムに導かれ、伸びやかかつ切なげなコーラスになだれ込んでいく様が感動的だ。歌にもパーソナルな思いが乗っており、2曲目にして既にハイライトだと感じた。

〈20歳になったらどんなことが起こるのかな? 僕は何ができるんだろう?〉という期待やドキドキ感を歌うたびに感じる、と“20”への思いを明かし、その次に歌ったのは希望を込めた賛美歌“It is well”だ。「どんなことが起こっても僕やあなたの心には平和がある、という曲です」。そう言って、祈りのようなアカペラで静かに歌いはじめる。ギターはほとんどベース音を弾くのみのシンプルな演奏で、神聖な温かさがフロアを包み込んでいった。そして、そのまま“Life Line”へ。ルーツである賛美歌と自身の曲がシームレスに繋がっていくライブは、DedachiKentaというシンガーソングライターならではと言えるだろう。

「チルな曲をいっぱいやったので、眠たい人、いませんか?」と語って観客の笑いを誘いつつ、ギターを交換して次に披露したのはコナン・グレイ(Conan Gray)の失恋ソング“Heather”のカバーだ。Z世代から圧倒的な支持を受けているこのシンガーソングライターについてDedachiKentaが明かしたのは、日本人とアイルランド人の両親を持つコナン・グレイが、日本らしさやアジアらしさが随所にある表現を世界中に届けていることへの共感と憧れだった。悲しげな“Heather”を歌いはじめると、終盤では〈僕は意中の相手が好きな女の子「Heather」になりたい〉と力強いハイトーンで歌い上げ、エモーションが爆発。曲の解釈と圧倒的な表現力に驚かされたが、演奏後の「めちゃくちゃ切ない、超失恋の曲ですね〜」という一言で、張り裂けそうな切ないムードがほどけていった。

「それでは、二部でもお世話になるチアゴさんを迎えて、あと2曲やりたいと思います。Please welcome, Thiago!」とギタリストのエリアス・チアゴ(Elias Thiago)をステージに招き入れる。2人で演奏するのは、“This is how I feel”と並ぶもうひとつのデビュー曲“Memories”。大切な人々への感謝、幼少期の思い出を振り返った時の幸福感を込めたという軽快なナンバーだ。「Ready?」とチアゴに声をかけて呼吸を合わせると、彼の温かいギターの音色に導かれるようにして歌いはじめる。オーディエンスはリズムに乗って自然とハンドクラップを始め、一体感が醸成されていった。1コーラス目が終わると、チアゴはDedachiKentaと一瞬顔を見合わせてから、流麗なギターソロを披露。

そして、チアゴがギターを爪弾く中、DedachiKentaは「第一部の最後は歌に専念したいと思います。チアゴ、ギターでリードしてください!」と告げてギターを置き、ハンドマイクで“I can’t seem to let you go”を歌いはじめる。両手でマイクを包んで〈Ooh〉と見事な高音部を切々と歌い上げるDedachiKenta、そしてギターで穏やかな調べを奏でるチアゴ。2人の一心同体なパフォーマンスに、ぐっと引き込まれる。

「ありがとうございます! See you in a few minutes!」。笑顔でステージを去る2人。まるで親密なホームライブに招かれたかのような感覚を観客に残し、第一部は幕を閉じた。