Tord Gustavsen
©Caterina Di Perri / ECM Records

ECMを代表するノルウェー人ピアニスト、その誉を新作とともに語る。

 2000年代に入って以降のECMを代表するアーティストは誰か? ノルウェー人ピアニストであるトルド・グスタフセンは、その答えの確かな候補となる。2003年に、ECMからデビュー。ことリーダー作に限ると、彼はすべてのアルバムを同社からリリースしている。そんな彼にとって、ECMはどんな存在であるのか。

 「ジャズにしろクラシックにしろコンテンポラリーにしろ、音楽という括りのもと優れた作品をリリースしており、その一部に自らなれているというのは光栄なこと。今ECMはストリーミングにも対応していますが、携帯の小さなスピーカーから流れてくる音では味わえない作品を届けようというのがECMの姿勢ですね」

TORD GUSTAVSEN TRIO 『Opening』 ECM/ユニバーサル(2022)

 彼はトリオ、アンサンブル、カルテットと3つの単位にて、同社からアルバムを出してきている。2022年の新作『オープニング』は前作に続きトリオによるものだが、彼にとってピアノ・トリオとはどういう形態となるのだろう?

 「僕にとってピアノ・トリオというのは全員の音がすべてきちんと聞こえる、理想的なコンビネーションです。小さなチェンバー・アンサンブル的な良さと、オーケストラと同じぐらいの音域と音のカラーを表現できる大きさを併せ持ちます」

 『オープニング』は2度のロックダウンの合間、昨年秋にスイスでレコーディングされた。ドラマーのヤーレ・ヴェスペスタは不動の一員ながら、今回スタイナー・ラクネスが新ベーシストとして加入した。彼はピーター・バラカンズ・ライヴ・マジックに複数回出演している〈しなやか〉派だ。

 「前作のベーシストは個人的な理由からもう旅ができなくなり、3人のベーシストを試しました。そのなかで一番個性のあるヴォイスを持っている人がスタイナーでした。彼のアプローチが一番大胆で、僕のクリエイティヴィティはとても刺激されたのです」

 そのメロディ性に富むインタープレイは、余韻に富むサウンドスケイプと研ぎ澄まされた美意識を悠然と浮き上がらせる。

 「アフリカン・アメリカンが伝承してきたものは大切ですが、教会音楽やクラシックの印象派からの影響も大きいですね。また、子守歌や古代北欧の民俗音楽とか、そういうものも僕のなかでは同じレヴェルにありますし、それらがすべて重なり自分の音楽宇宙となっていると思います」

 まさに、現ECMのエース。トルド・グスタフセンは思慮深くも、まさに欧州ならではの誉高きジャズを紡いでいる。