マンチェスターのラッパー、エイチが完成させたファースト・アルバムは挑戦的な姿勢を打ち出した作品だ。アシャンティ“Rock Wit U (Awww Baby)”をサンプリングした“Baby”など、ポップソングとしても楽しめる親しみやすさが印象的な楽曲が多いのは、UKラップのファン以外にも聴いてもらいたいという意欲の表れだろう。“1989”も特筆したい。ストーン・ローゼズの“Fools Gold”を引用したトラックは、エイチの地元愛が感じられて微笑ましい。同じくマンチェスター出身のバグジー・マローンが“Memory Lane”でオアシス“Wonderwall”の歌詞をラップしたときも思ったが、いまはロック勢よりもUKラップ勢のほうがマンチェ・ロックの文脈をリスペクトしているのは興味深い現象だ。