©George Muncey

アン・マリーが待望のサード・アルバム『Unhealthy』をついにリリース! 数々のシングル・ヒットを経て表現の幅を広げた濃厚な楽曲群は、完璧なようで完璧ではない自分自身の人生を表現した彼女らしいユニークな聴き心地に仕上がっているぞ!

 昨年10月の3年ぶりの来日公演も大好評だったUK出身のシンガー・ソングライター、アン・マリーによるニュー・チャプター。2年ぶりのサード・アルバム『Unhealthy』は彼女の新たな方向性を提示する。激キャッチーで超カラフルという、これまでの王道ポップ・イメージを捨て去って、よりエッジーで野心的なオルタナティヴ・ポップ路線へと進化している。

ANNE-MARIE 『Unhealthy』 Major Tom’s/Asylum/ワーナー(2023)

 前2作では、スティーヴ・マックやTMS、ルディメンタルやデジタル・ファーム・アニマルズら多数のヒットメイカーたちと楽曲単位で制作。だが、この新作においては少数精鋭のソングライター/プロデューサーたちと、じっくり腰を据えたアルバム作りがなされている。ダヴ・キャメロンやネッサ・バレットらを手掛ける米国人プロデューサーのエヴァン・ブレア。彼女自身のツアーにも帯同していた英国人デュオのビレン・テッド。エミリー・サンデーやノーティ・ボーイらを手掛ける英国人デュオのモージャム。以前から交友のあるこの3組が、アルバム全編を通して共同もしくは分担で作業にあたっている。

 コラボに関しても、エド・シーランからマシュメロ、ドージャ・キャットにリトル・ミックスまで、これまで多彩なアーティストと共演してきた彼女だが、今回は最小限に留められている。ルイ・ヴェガの“Mambo No. 5 (A Little Bit Of...)”を引用した“Psycho”には英国人ラッパーのエイチが、“You & I”にはカリードが、それぞれゲストで参加。前者は当初ソロ楽曲でリリースされる予定だったのが、ティーザーを公表したところ、フィーチャリングでラッパーを入れたほうがいいというファンの意見を受けて完成したもの。結果、昨年9月にリリースされ、全英5位のスマッシュ・ヒットを記録している。また意外なところでは、アルバムのタイトル曲である“Unhealthy”にカナダ人カントリー・ポップ・スター、シャナイア・トゥエインが参加。もともとシャナイアの大ファンだったという彼女たっての希望で、カントリー調のデュエットが実現した。

 その“Unhealthy”というナンバーでは、如何に不健康な恋愛をしているかが歌われて、でも、その関係から逃げられない哀れな自身が笑い飛ばされる。その他の楽曲に関しても、タイトルを見れば大体の内容が想像できるだろう。〈悲しいビッチ〉〈サイコ〉〈暴走事故〉〈怨念〉〈執着〉〈異常者〉などなど……。特にアルバムの前半は別れた恋人に対する恨みつらみがたっぷり綴られて、自虐的で自嘲的。とにかくダメっぷりが全開なのだ。とはいえ、常にウィットに富んでいて、ある意味とってもポジティヴ。クスッとした笑いでまとめられている。そしてアルバム後半になって、ようやく希望の光が差し込み、穏やかなムードで完結する。

 デビューから約10年、有無を言わせぬ耳タコなメロディーと、誰もが頷けるテーマを歌って共感を得てきた彼女。みんなの気持ちの代弁者として、いろんなキャラを演じて楽しませてくれた。が、本作においては、本音に近い肉声と実体験のみが聴こえてくる。自身で撮影したというジャケット写真も、本作の内容と見事にシンクロ。ダメっぷりと自虐的ユーモアが的確に捉えられている。

左から、アン・マリーの2018年作『Speak Your Mind』、2021年作『Therapy』(共にMajor Tom's/Asylum)、エイチの2022年作『Close To Home』(Capitol)、カリードの2019年作『Free Spirit』(RCA)、シャナイア・トウェインの2023年作『Queen Of Me』(Republic)