さまざまな栄誉を掴んでUKラップの王者は記録と記憶に残る特別な存在となった。2枚目の傑作『Heavy Is The Head』に至るまでの栄光を振り返ってみよう!!
記録づくめの成功
共同主催者のエミリー・イーヴィスが〈史上最高〉と形容した2019年の〈グラストンベリー・フェスティヴァル〉。その初日、英国出身の黒人ソロ・アーティストとして初めてヘッドライナーを飾ったのが25歳のストームジーだった。年齢的にも当時24歳でヘッドライナーに選ばれた71年のデヴィッド・ボウイに次ぐ史上2番目の若さ。ちょうど全英No.1シングルに輝いた“Vossi Bop”や“Crown”などを披露した彼は、BAME(黒人、アジア人、少数民族の英国人)から成るダンス・グループのバレエ・ブラックやクリス・マーティン(コールドプレイ)らを引き連れ、刑事司法制度における人種の偏りなどを訴えて広く賞賛を集めた。あの(かつてラップ嫌いで知られた)ノエル・ギャラガーが〈グライムはパルプやジャム、キンクスと同じくらい英国的なもの〉と認めて賛辞を贈ったというのも凄いことだが、この大舞台でストームジーが身に着けていたのはまさにユニオンジャック柄の防刃ベストである。これはロンドンでの刺殺事件の増加に対するメッセージとしてバンクシーが制作したものだ。そして、その防刃ベストをジャケにあしらったのが、2019年末にリリースされたセカンド・アルバム『Heavy Is The Head』であった。
ただ、そうなる以前から彼が破格の成功を収めてきたのは言うまでもないだろう。93年にロンドンのクロイドンで生まれ、11歳でラップを始めたストームジーは、みずから〈グライムの子ども〉と称するようにワイリーやスケプタに影響されてきたという。2010年代に入るとローカルな客演に顔を出すようになり、2013年に初のミックステープ『168: The Mixtape』、翌年にはソロEP『Dreamers Disease』をリリース。憧れのワイリーやチップ、プロフェッサー・グリーンといった大物MC陣の楽曲に抜擢され、2014~15年のMOBOアウォードで〈最優秀グライム・アクト〉を2年連続受賞する彼が早い段階から期待されていたのは明白だった。
そんな次代のスターに最初の成功をもたらした一曲こそ、JMEの“Serious”をビートジャックしたフリースタイルの“WickedSkengman 4”(2015年)だった。これは彼にとって初めての全英TOP40ヒットとなる18位まで浮上(全英TOP40入りした最初のフリースタイル音源でもある)。そこからギグズやPマネーとのコラボも経てアトランティックとの契約を果たし、ド直球なグライムの“Big For Your Boots”を全英6位に叩き込んだ勢いのまま、ファースト・アルバム『Gang Signs & Prayer』を2017年2月にリリースしたのだった。
傑作の誉れ高い同作は見事に全英1位をマークして〈全英チャートでNo.1を獲得した最初のグライム・アルバム〉となったほか、翌年のブリット・アウォードにて彼に〈英国ソロ男性アーティスト部門〉〈最優秀英国アルバム〉の2部門受賞という栄誉をもたらした。こうした駆け足の成功によって、彼は〈グライム・シーンの最重要ラッパー〉という形容すら一気に乗り越えて、現行UKシーンにおける最重要アーティストと目されるに至ったわけだ。なお、これに前後して彼はリンキン・パークやリトル・ミックス、ジョルジャ・スミスを含むいくつかのコラボを世に出してもいる。