©John Abbott

リモート録音で自由に羽ばたく、現代の讃美歌

DAVE DOUGLAS 『Songs Of Ascent: Book 1 - Degrees』 Greenleaf Music(2022)

 コロナ下でも、テクノロジーを駆使して、精力的な創作活動を繰り広げてきたデイヴ・ダグラス(トランペット)。前作の『Secular Psalms』でダグラスは、ヨーロッパの古楽器奏者たちとの変則編成のリモート録音で、ベルギーの15世紀の宗教壁画と、宮廷音楽家へのオマージュを捧げた。このプロジェクトを通じて、宗教音楽への関心を深めたダグラスは、自らのルーツであるユダヤ系の、春と夏と秋に催される三大巡礼祭で歌われる、15曲からなる讃美歌“Songs Of Ascent”へのジャズ・オマージュに着手する。ダグラスは、2010年代に自らの活動の中心だった、ジョン・イラバゴン(テナー・サックス)、マット・ミッチェル(ピアノ)、リンダ・メイ・ハン・オー(ベース)、ルディ・ロイストン(ドラムス)のクィンテットを、レコーディングでは5年ぶりに再結成し、このプロジェクトは2020年に録音された。当時若手だったメンバーも、それぞれに成長を遂げ、またリモート録音という状況を逆に生かしたプロダクションを、ダグラスは進める。本作『Songs Of Ascent: Book 1 - Degrees』には8曲が収録され、アマゾンなどの一般ルートで流通している。もう8曲を収録した続編  『Book 2 - Steps』も録音されているが、2作目は、ダグラスのオンライン・コミュニティであるGreenleafの登録メンバーだけが、アクセスできるように設定された。『Book - 1』の冒頭の“Never Let Me Go”を除いて、後の15曲は“Songs Of Ascent”に由来する。

 ダグラスは、まず自分のメロディとインプロヴィゼーションのラインを4人に聴かせ、複雑なユニゾン・メロディにそれぞれが個性を発揮しながら合わせ、ハーモニー、リズムを膨らまし、インプロヴィゼーションを執るという手法を駆使した。その結果、かつてのクィンテットとよりも、さらに自由なスペースが展開されている。

アルバムの世界観が、5人の対面のインタープレイが実現した時、どのように進化するのか、期待される。