60年代、70年代、80年代と長きに渡ってポップ・シーンの中心的存在であり続けたビー・ジーズのドキュメンタリー映画「ビー・ジーズ 栄光の軌跡」が公開される。2億2000枚以上のレコード・セールスを誇り、全英・全米のチャートにおけるトップテン・ヒットは70曲以上、ナンバーワン・ヒットにいたっては20曲を数えるという正真正銘のモンスター・バンドのキャリアが描かれる本作。どんな面々が試写会場に集まったのか見渡してみると、青春期に「小さな恋のメロディ」のトレイシー・ハイドやマーク・レスターに恋焦がれた直撃世代から、「サタデー・ナイト・フィーバー」のフィーバーが世界中で嵐を巻き起こしていた頃にまだこの世に生を受けていないはずの年代の方など、年齢層は実に幅広い。もはや彼らの音楽は世代と世代をつなぐ橋渡し役を担っているのかも……などと考えながらスクリーンを見つめていると、鮮烈な音色が目の前に広がり、思わずハッと息を呑んだ。バリー、ロビン、モーリスのギブ3兄弟がまばゆいライトに照らされながら原題にもなった“傷心の日々(How Can You Mend A Broken Heart)”を歌っている。聴きなれたはずのヴォーカル・ハーモニーがまるで魔法の絨毯のような軽やかさで空高く舞いあがっていくのが確かに見えた。エヴァーグリーンという言葉の本当の意味を解き明かすような圧巻のパフォーマンス。他の誰にも紡ぎ出せないハーモニーこそがこの物語を成立させる通奏低音になっていることを明確に理解させてくれる素晴らしいオープニングだ。
活動初期を彩るソフトでメロディアスなポップ・ソングの数々。若き大滝詠一も魅了された魅惑のヒット・チューンの裏で静かに音を立てていた不協和音も映画は赤裸々に描き出していくのだが、バンドである前に彼らは兄弟である。ゆえにそこに生じる軋轢などは他のバンド・ヒストリーと一線を画すような生々しさがあり、複雑な気持ちにさせられることもしばしば。幾度となく栄枯盛衰を経験してきた彼らの半生はとにかくドラマティックで、表現スタイルの変遷も含めてダイナミックな起伏を作り出しているのだが、その激しさがグッと増すのは、70年代後半におとずれた「サタデー・ナイト・フィーバー」との運命的な出会いとなるだろう。時代のトレンドとなっていた16ビートを大胆に取り入れ、ミラーボールに映えるようなきらびやかなサウンドを打ちだした結果、メガヒットを記録した映画と共にまばゆいまでの栄光を掴み取ることとなる。しかし栄光の期間が長ければ長いほど、やがて射し込む影が大きくて深いものになるのは自明の理で、その後彼らはかつてないほどの凋落を経験する。それにしても、実際これほどまでの厳しい逆風が吹いていたとは。ディスコ反対論者のDJが彼らの音楽を象徴として扱い、スタジアムを舞台に大規模なアンチ・イヴェントを開いていた事実を知っていたという人はたぶん少ないのでは? このくだりは実際のところ本作のクライマックスを形成していると言ってよく、少なからずショックを与えると思う。
そんな世間の風にうちひしがれながらも、彼らの大きな武器である優れたソング・ライティング力を発揮し、ふたたび機体を持ち直していく彼ら。いつ何時も彼らをつないでいたハーモニーが時代の波を被りながらどのようにして維持され、どんな輝きを放ち続けたのかをこのドキュメンタリーは丹念に語ってみせる。そして随所に登場するビー・ジーズ愛を語るコメンテーターたち。マーク・ロンソン、ノエル・ギャラガー、ジャスティン・ティンバーレイク、ニック・ジョナス、クリス・マーティン、そしてエリック・クラプトンなど大変ヴァラエティーに富んでいて、彼らが奏でる愛のハーモニーも観る者の心にじんわりと響くはずだ。
出演者のなかでもっとも人目を引くのは、兄弟のなかでただひとりの存命者となってしまった長兄のバリーだろう。彼が回顧するひとつひとつの言葉が映画全体の色合いを決定づけていることは間違いない。特に兄弟たちへの思慕を口にする最後のシーンが切なく美しい。彼のなかではビー・ジーズの思い出はいつまでも若葉のように色鮮やかなままなんだ、ということがわかっただけでも、この映画を観た甲斐があったというもの。きっとあなたもそんな思いに駆られるはずだと思う。
INFORMATION
公開を記念して、タワーレコード新宿店・秋葉原店にてキャンペーンを開催します。
開催期間:2022年11月22日(火)~終了日未定
■新宿店
パネル展&プレゼントキャンペーン
https://tower.jp/store/news/2022/11/055039
■秋葉原店
プレゼントキャンペーン
https://tower.jp/store/news/2022/11/097002
MOVIE INFORMATION
ビー・ジーズ 栄光の軌跡
監督:フランク・マーシャル
脚本:マーク・モンロー
出演:バリー・ギブ/ロビン・ギブ/モーリス・ギブ/アンディ・ギブ/エリック・クラプトン/エル・ギャラガー(オアシス)/ニック・ジョナス(ジョナス・ブラザーズ)/マーク・ロンソン/他
配給:STAR CHANNEL MOVIES
(2020年|アメリカ|111分)
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2022年11月25日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館他全国順次ロードショー
http://thebeegees-movie.com/