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藤井学 作、ナイスグルーヴの可愛いカリプソ“屋根の上のピーナ”

――ここからは、近作音源について伺っていければと思います。まず、昨年11月に発表された、配信第1弾シングル“屋根の上のピーナ”。この曲は、作詞を次松さん、作曲を藤井さんが手掛けられた、カリプソ調のナンバーです。

藤井「曲自体は、かなり前からあったものなんです。2014年ぐらいにバンドに提出していた感じで。それを最近になってワンマンライブをする上で、新曲をなんかやろうって話になって。まだ手をつけてない曲から、みんなで2曲ほど選んだ、そのうちの1曲ですね」

THE MICETEETH 『屋根の上のピーナ』 MASTER THRONE(2022)

森寺「マブちゃん(藤井)の今までの作風からすると珍しいなぁと思いましたね。最初にデモ音源を聴いた時の印象は〈なんちゅう可愛い曲や!〉って思って(笑)。自分のパートを録音しながら、マブちゃんはきっといつものように真面目な顔でこのメロディを捻り出したんやろなぁ~って想像してニヤニヤしてました」

藤井「そんなこと思うてたん(笑)?

録音前にライブで1、2回やったことがあって、大枠のアレンジもわりと定まってたので、それをベースにレコーディングしていった感じですね」

金澤「ウチらのバンドは、作曲者が主導してアレンジを決めていくんですけど、過去のTHE MICETEETHに比べたら、カリプソ感が出せるようになってきたんじゃないかと。グルーヴがより本場に近づいたんじゃないかとか、満足感はあります」

藤井「そこに、次松がナイスな歌詞をのせてくれて」

2022年のシングル“屋根の上のピーナ”

 

江戸文化と落語はカリプソ?

――この、どこかファンタジックな詞世界は、次松さんらしいなと思いました。

次松「この曲は、曲調がカリプソじゃないですか。で、日本のカリプソってどういうものだろうと考えたときに、江戸時代が一番カリプソなんじゃないかって閃いたんですよね」

――むむ。なんだか面白い話になってきましたよ(笑)。

次松「戦国時代が落ち着いて、町民文化が発達してきて、町民が主役になり出した。ああ、それはカリプソだなって(笑)。差別的な意味はまったくないんですけど、たとえば大工の棟梁がフィリピン人のお姉ちゃんと結婚するのがカリプソっぽいなと思って、こういう歌詞にしたんです」

金澤「お前のカリプソの定義、どないなってんねん(笑)」

次松「なんだろう。宵越しの金は持たねえ、みたいな。給料もらったらパーッと使っちゃう感じが、自分の中では曲と結びついて」

――落語なんかでもよく、職人さんが金が入ったらすぐ、飲む打つ買うに使っちゃう、みたいな題材があったりしますよね。

次松「そうですそうです。まさに、カリプソと落語が自分的に結びついてるんです」

藤井「はぁ~、そうなんや」

――ブルースギタリストの吾妻光良さんは、カリプソはワイドショーだって話していましたけど、カリプソって、町の人の噂話とか、その当時の事件をテーマにしていたりして、江戸時代でいう瓦版売りとか、河内音頭の新聞詠みに通じるものがありますよね。

次松「で、歌詞の中に、〈ビーバーが月謝を払って習いにくるぐらい、俺は家を建てるのが上手い〉っていう意味の英詞を入れてるんですけど、それは、落語に〈魚の食べ方が上手いねえ〉〈おお、俺んとこには猫が月謝を払って習いにくるんだよ〉って一節があって。そのパロディを入れてみたりしてます」

 

ロックステディに生まれ変わり、リモート録音で輝いた“KILLER KHAN”

――続いて12月に発表されたのが、第2弾配信シングルの“KILLER KHAN”。

金澤「これも、実はめちゃめちゃ昔からある曲ですね。バンドを組んで僕が一番最初に書いた曲が“Butterfly Pussy”っていう曲だったんですけど、その次に書いた曲。インストとしては一番最初ですね。当時のメンバー、言うたらレコードデビューする前のメンバーとかでやってたような。それぐらい古い曲です」

THE MICETEETH 『KILLER KHAN』 MASTER THRONE(2022)

――配信されているバージョンはロックステディにアレンジされていますが、曲を作った当時からは変わっているんですか?

金澤「そうですね。僕は家でデモをつくるんですけど、3年前ぐらいかな、ソフトのクオリティが上がってきた段階で、打ち込みやねんけど、結構生っぽいデモをつくろうって思って毎日毎日試行錯誤してた時期があったんです。その中で、この曲にも手をつけていて」

2022年のシングル“KILLER KHAN”

藤井「もともとはスカで、ストレートなスカと、シャッフルの2パターンでやってたんですけど、いつの間にかやらなくなり。

そこで、新しくロックステディに生まれ変わらせて。ザワが新しくリアレンジしたのを聴いて、嘘なく、むちゃむちゃようなったやん!って思いましたね」

森寺「この曲は、僕がマイスに正式加入する前からあったので特別な思いがあったんです。そもそもはスカのアレンジで定着してたので、ザワから届いた今回のアレンジのデモを最初に聴いた時は正直複雑でしたね」

金澤「そうやったんや?」

森寺「なんというか、加入前のマイスのファン目線みたいなのが作用して、元々のスカのアレンジのほうが良いのでは?って、第一印象では思って。

だけど、いざ録音するに当たってデモを聴き込むうちに、ザワが新しいことにチャレンジしてることに気づいて。ロックステディの曲調こそが、このメロディの持つ疾走感を表現するのに重要だと思い直しましたね。今はこのアレンジがダントツで最高だと思ってます!」

藤井「演奏する側としても、これは腕が鳴るというか。面白いもんで、“KILLER KHAN”もそうやし、僕が作曲した曲であっても、最初は作曲者が作ったデモのトラックに、入っているドラムやホーン、ピアノなどパートごとに差し替えていくんです。それが一つずつ生の楽器に挿し変わっていくと、どんどんと曲が輝いていくようで。

個人的には、みんなと音源をやりとりしながら、3回ぐらい録音し直してるんですけど、ヘッドホンをつけながら演奏に入り込んでいくうちに、途中からセッションしてるような気分になってくるんです」

――なんかVRを見ているうちに、リアルとの境目を感じなくなるぐらいに、その世界に没入していくような(笑)。

藤井「ああ、たしかにそんな感覚は、ちょっとあったかもしれない(笑)」

次松「すごい昔、宅録で作ってCD-Rに焼いて手売りした、『Skademy Award』(99年)っていうアルバムがあったんです。そこに初期のスカアレンジが入ってたんですよね。

今回、今のアレンジの音源をYouTubeに上げたら、コメント欄に、メキシコ人の方から〈これ、『Skademy Award』に入ってた曲や!〉って書き込みがあって。「すごい! 知ってんだ!」ってびっくりして。メキシコに住んでて、その音源はどうやって入手したんだっていう(笑)。嬉しいし、不思議な感じでしたね。自分たちの手の及ばないところに届いているのが面白くて」

金澤「YouTubeやサブスクって、海を越えるじゃないですか。コメントも海外の方のほうがくれるんですよね。そういうのを見ると、世界中にダイレクトに届いてるんやって、やる気につながりますね。

俺らとしては、サブスクやYouTubeを解禁したのも、再生回数を稼ぐためなわけでもなく、誰かが思い出したときに聴いてもらって、こんな新曲が出てたんだっていう感じで聴いてもらえたらと思ってはじめたことなので。そういうファンがいてくれるのは、嬉しいなと思います」